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真壁華夜がその日・その時感じたことや考えたことの整理或いは備忘録的に使われることもあれば萌えメモとして使われることもあるし、日常の愚痴をこぼしていることもあるかと思います。基本的に偏屈な管理人sが綴っているのでその辺を許容できる人向け。反感買いそうなものは裏日記に書くようにしています。
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2010/05/29 (Sat) 00:39:41
●凍結前にログ下ろししておこうと思ったら、txtデータ入れてたFDを紛失してしまい阻まれました。
 あれ? おかしいなぁ……。
 フラッシュメモリに保存しておいた、先のプチオンリの無配本の原稿しかないぞこれ…待て。
『遠くの何時か』とか『ベタだけど有り得ない』とか『探していると云えなくて』とか軒並みデータがない。いや製本用のデータは残ってるけどこれは製本するときにしか使いたくないので――って言ってたら出てきた。

 ――ってことで凍結前に怒涛のログ下ろしいきます!

 


 実家の庭にある桜の木は、他とは種類が異なるらしく早咲きだった。
 今年も周りが漸く花を付けはじめた今、既に見頃を迎えている。彼が知る限り、この自宅の桜と、もう一箇所――弟の友人が神主を務める神社の境内にある桜が早咲きの桜のある場所だ。
 外を見遣れば風も穏やかで、昼間なら外套が不要に思えるほど暖かい。
「散歩日和、だね」
 悪戯を思い立った子供のように無邪気な笑顔を唇の端に乗せ、彼は久し振りに顔を見せた実家を後にする。
 車で出掛けても良かったが、寄りたい店の周囲は生憎車を停めておける場所がないので歩いて出掛けることにした。
 まず足を向けたのは行き着けの和菓子屋。
 この時期ならではの和菓子、桜餅を手土産に買い求める。
 それを手に駅へのんびりと歩いた。
 ぽかぽかと暖かい陽の下では、少し歩くと薄く汗が滲んでくる。
 辿り着いた駅。電車の接続は思ったより良かった。
 目的地の中野には、電車の揺れに眠気を刺激されたものの乗り過ごすこともなく乗り換えも済ませて無事に辿り着くことが出来た。
 下車した中野駅から、目指す神社までは慥か徒歩四十分程度だっただろうか。
「うん、いい天気だ」
 見上げた空は絵に描いたような薄水色。
 何処からともなく鶯の鳴き声が聞こえてくる。
 少し歩くと和菓子屋があった。
 何となく目を遣ってみると――…
「あれ?」
 自分が手にしているものと同じ名を冠した、見慣れない和菓子が並んでいる。
 それについ興味を惹かれてしまい、ふらりと立ち寄って先程買ったのと同じ数を所望して手土産に追加した。
「これは…久し振りに」
 甘味同盟の活動が出来そうだと、満足そうに彼は笑みをこぼした。


【桜花の思い出】


 眩暈坂まで辿り着けば店までは後もう少しのように思うのだが、これが存外遠かった。
 いつもは隣町の方から車で来てしまうので、この坂を好んで上り店主に会いに行く弟のことを考えるとなんだか愛しい気持ちになる。
 上り詰めた坂の上。
 少し歩けば古書店京極堂の看板が見える。
 しかし店先には蓋が掛かっている様子で、近付いてよく見ると案の定「骨休め」の札が掛かっていた。
「神社、かな? うん、そんな気がする」
 何となく、神社に足を向けてみる。
 道に沿って歩いて行くと出くわす小さな森。
 厳かな雰囲気が染み透っている、この石段は好きな場所の一つだと改めて思う。
 靴音を響かせて階段を上り、鳥居を潜ると期待通り神主の後姿が見えた。
 口許には小さな笑み。
 そして。
「うわはははは、矢っ張り此処にいたなこの馬鹿本屋ッ!」
 肩越しに振り返った顔はしかし、驚きもせず穏やかな顔を少しだけ困った色に染めていた。
「これは…また珍しいお客さんですね。――お久し振りです。よく此処にいると判りましたね」
 大抵の人間は騙されてくれるのだが、今日もこの神主を騙すことは出来なかったらしい。
「残念。今日も、僕の負けみたいだ」
「彼奴とは、無駄に付き合いが長いものですから」
「君くらいだけどね、ほんと。――まぁ、いいや」
 玉砂利を踏み締めて歩み寄る。
「お仕事中?」
「そうですね…掃除をしていただけですから。総一郎さんは…店に何か御用でしたか?」
「いや、此処で良いよ。お茶にしない?」
「お茶…ですか? 此処では肝心のお茶の用意が出来ませんから良ければ店に戻りませんか?」
「此処でね、構わないんだ。桜が見たくて来ただけだし。――休憩、しよう?」
 紳士的な笑顔。
 けれど、それは同意以外の選択肢を求めていない。
 そんなところはよく似ていると思う。尤も――弟の方がもっと露骨で強引ではあるが。
「構いませんよ。でしたら…其処の軒先にどうぞ」
「ありがと」
 促されるまま、軒先の縁台のような部分に腰を下ろす。
「矢っ張り、此処も咲いてるんだね」
「え?」
「桜。早いよね、此処も」
「そうですね…品種が異なるのでしょうね、恐らく」
「お花見日和だ」
「慥かに」
「だからね、これ」
 手にして来たものを差し出して、広げる。
「お土産」
「桜餅ですか。良いですね」
「でもね、不思議なんだ」
「不思議…とは?」
「同じ名前だったんだけど。――ほら」
 もう一つの包みを広げて見せる。
「こっちは、見慣れてるじゃない? でもこれは」
「あぁ、なるほど」
「だからね、今日は…甘味同盟としての活動をしようと思って」
「なかなか風流なお題ですね」
「でしょ?」
 見慣れた形――薄く伸ばした皮で小豆餡を包んだ形状の方を総一郎は手に取って口を付けた。
「今日はね、番外編。中禅寺先生の講釈、楽しみにして来たんだけど」
 茶化すように口にして桜餅を勧める。中禅寺は、見慣れない大福状のものに先に手を付けた。
「桜餅には代表的な種類が二種類あるんです。一つは江戸時代の江戸発祥の桜餅。総一郎さんが手にしている方がそれですね。もう一つは京菓子として親縁なるも、由来は定かではない江戸以来の起源を持つ桜餅があります」
「ふぅん……。それで?」
「一般的に、糯米を蒸かして干し、粗めに挽いた粒状の道明寺粉を用いた皮に、大福のように餡を包んだ形状のものは上方風の桜餅で道明寺餅と区別して呼ぶこともあります。僕が手にしている方ですね」
「元元、二種類あるってこと?」
「そうですね…同じ名を冠していながらも異なる存在だということですね」
「奥が深いなぁ……」
「近畿地方では総一郎さんが召し上がっている江戸風の桜餅を長命寺餅、僕がいただいている上方風の桜餅を道明寺餅と区別して扱うこともあります」
「知らなかった」
 独特の癖のある香りは決して好きなわけではないのだが、この季節ならではの春の香りのようで嫌いになれない。
「関東では上方風のものを特に長命寺餅と表記して、桜餅とは異なる和菓子として扱うこともあるようです。道明寺餅は平安時代の餅菓子である椿餅が原型だと云われています。全国的には桜餅と云えば上方風の桜餅を指すのが一般的なようです」
「そうなんだ」
「一方長命寺餅は一七一七年、享保二年ですね。に――初代山本新六が隅田川の土手の桜の葉を使って桜餅を考案し、向島の長命寺の門前にて売り出したところ、付近の隅田堤に将軍吉宗の台命による桜が植えられ花見客で賑わったため繁盛したそうです。桜の落葉を見て桜餅を考案するに至ったとか」
「じゃあ、こっちの桜餅は割と最近なんだ」
「そうなりますね」
「関東に、ずっといると判らないよね」
「慥かに」
 彩のために巻かれた桜の葉を剥がし、包みの端に置く。
 べたべたと身にくっついてしまうので剥がすのに苦労する時もあるが中禅寺は器用に剥がしていた。
「それさ」
「何か?」
「そのね、葉っぱなんだけど」
「桜餅の独特の香りの原因ですね。元元彩や香り付けのために巻かれているものなので食べるのはあまりおすすめしません。そもそも桜の香りは塩蔵葉に含まれる香り成分、クマリンに因るものですが、肝毒性があるため多量の摂取は危険でもあります」
「知らなかった」
 何処かで鶯が声を上げた。
 春風が何処からか割り込んできて、桜の花弁を攫ったけれど途中で手放した何枚かはひらひらと二人の間に舞い落ちた。
「歴史がさ、ある分深いよね。和菓子って」
「そうですね」
「いいね、偶には和菓子で会合」
「江戸と上方で異なるものは他にもあるでしょうからね」
「それも、追加しよう」
「何に…ですか?」
「活動目的」
 笑顔で告げ、最後の一口を味わって飲み下す。
 幸せそうに表情をほころばせ、悪戯を持ち掛けるように総一郎は思いついたことを口にした。
「御馳走様。後は、奥さんとどうぞ」
「あの」
「実はね、そろそろ帰らないといけない」
「またね」
 あっさりと踵を返して眩暈坂を目指す。
 淡い薄紅は何故こうも心を躍らせるのだろう。
 古書店の前を通り過ぎて少し行くとそこはもう眩暈坂。
 奇妙な傾斜で続く坂道をのんびり下っていく。
「……あれ?」
 正面から上ってくるのは見知った顔。
「今はね、神社。多分、まだいると思うけど」
「――何でお前が此処にいるのだ」
「甘味同盟の活動のため、かな。桜餅、差し入れしてきたから」
「だから何なのだ」
「講釈、面白かったよ」
「僕はそんなものに興味なんかない」
「うん、知ってる。……じゃあね」
 弟と擦れ違い、弟がたどってきたのであろう道をたどる。

 春。
 桜。
 弟と、彼。

 一瞬脳裏に蘇った記憶。
「あぁ、そういえば前にも――…」
 もう随分と昔のことだ。
 あの二人が旧制高校に通っていた頃も、確か。
「桜を、口実にしてたっけ」
 桜花の思い出をなぞりに行ったのだろうか。
 途切れないことが逆に辛くなる二人の関係は時時、痛々しく見えることもある。
 けれど。
「途切れちゃったら駄目なんだろうなぁ…きっと」
 見上げた空は優しくて。
 擦れ違う風も穏やかで。
「シアワセって難しいねぇ」
 淡い笑み。
 目を伏せて、ゆっくりと瞼を開き。
 思い出した諸諸とその憂いとを隠す。
 自分は願うことしか出来ないから。
 二人分の幸いを小さく願う。
「今年の桜花の思い出が、どうか――」
 彼らにとって優しいものでありますように。
 誰にでもなく願って顔を上げる。
 ふと目が合った太陽はいつの間にか、淡いオレンジを纏っていた。


備考>今年のプチオンリでの無配本の第1稿。校正も何もしていない状態です。無配本お手持ちの方は台詞とかちょこまか違っているので読み比べてみてください。

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