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真壁華夜がその日・その時感じたことや考えたことの整理或いは備忘録的に使われることもあれば萌えメモとして使われることもあるし、日常の愚痴をこぼしていることもあるかと思います。基本的に偏屈な管理人sが綴っているのでその辺を許容できる人向け。反感買いそうなものは裏日記に書くようにしています。
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2010/05/29 (Sat) 00:44:03
 
 幾度も幾度も繰り返されて日常として確立された時間。それをなぞるように今日も、薔薇十字探偵社の一日は始まった。
 探偵助手の益田が出勤してくる前に秘書兼給仕役の和寅は自分の朝食を済ませ、社内の掃除を終えて小休止。お茶を啜っていると程なくして益田が現れる。そして調査の報告書の作成などの事務作業をしながら世間話に花を咲かせ、午前中を遣り過ごす。
 いつも通りの午前だった。
 いつも通りの午前のはず――だった。
 お茶を淹れ直すため和寅が炊事場に下ったのを見送って、益田はひとつ欠伸をこぼし伸びをする。
 いつも通りの午前が壊されたのはその矢先のことだった。
「……お客さんかな?」
 ドア越しに靴音が微かに聞こえてきた。
 そそくさとテーブルの上を片付けて、客を迎える準備をする。

 カラン。

 ドアベルが軽やかな音を立てた。
「いらっしゃいま――」
 え?
「あの」
 目を疑った。
 慌てて探偵の私室の方に目を遣り確かめる。益田が出勤してから今の今まで一度もドアは開かなかったはずだ。
 それなのに。
「え、え……」
 言葉が出ない。
 そんな――そんな馬鹿な話はないだろう。
 外泊をして今戻って来た?
 いや、それならそうと和寅が云うはずだ。ついさっきまで世間話をしていたのだし。
「榎木津さん、な…な、中に」
 和寅に黙れていた?
 いやそれもないだろう。
 では。
「中に、いたんじゃないんですか?」
 その問いに、榎木津は少し驚いたような顔をして、
「ん? あぁ…違う。えーと、君は…益田君、だったかな?」
 と、恐ろしい科白を返してきた。
 血の気が引くのが自分でも判る。
 人の名前を悉くいい加減に呼ぶ榎木津が、正しく名前を呼んだ上敬称まで付けるなんて尋常ではない。何かそんな――そんなにひどく怒らせるようなことを自分はしてしまったのだろうか。
 必死に思い出そうとしてみるが、困ったことに心当たりがまるで見当たらない。というかそもそも榎木津の怒りのツボが理解出来ない。そのため何が気に障ったのか、考え出したらキリがない。
「す…すみません僕が悪かったですすみませんすみません」
「え? 僕…何かされた?」
 その問いはしかし、益田の耳には届かない。
「困ったな」
 然程困った様子でもなく呟くと、こちらの慌しい様子に気付いてか和寅が戻って来た。
「一体如何したっていうんだ益田君」
「あぁ、丁度良かった」
「へ? せ…先生?! もう起きたんでやすか?」
「違うってば。僕、総一郎だよ」
「え? あ…総一郎様でやしたか。し、失礼しました!」
「ところで――彼奴はまだ寝てるのかな?」
「多分、そうだと思います」
「そう。ありがと」
 微笑して口にすると、総一郎はそのまま真っ直ぐ榎木津の私室に這入っていった。

 ガチャッ

 ドアが軋み、小さな音を立てて閉まる。
 それにやっと我に返った益田は暫し呆然と探偵の私室を眺めていた。
「あれ? 和寅さん?」
 そしてやっと和寅に気付く。
「益田君、わたしが戻って来たのにも気付いてなかったんですかい?」
「はぁ…すみません。今気付きました」
「まったく、君もそそっかしいなぁ」
「な…何がですよ。普通慌てますよそんな――って、あれ? 榎木津さんは?」
「まったく、君もそそっかしいなぁ。確かにうちの先生と総一郎様はお付き合いの長いあっしも間違えるほどよく似ていらっしゃいますがね」
「だから、僕あたりじゃ間違えて当然じゃないですか」
 云い返して、気付く。真逆――。
「さっきのは総一郎様だ。全く、お話も聞かずに勘違いして醜態を晒すなんて」
 小馬鹿にしたように溜息を吐いて肩を竦め、脱力してその場にしゃがみこんだ益田を少し哀れむような目で見下ろすと。
「とにかく、お茶を淹れ直すから少し落ち着いたらいい。総一郎様がいらしたんじゃ我我はお邪魔かもしれないからね」
 そう云って和寅がまた炊事場に引き上げる跫を、探偵の私室のドア越しに聞いて――総一郎は苦笑し弟の眠るベッドの傍らに腰を下ろした。
 手を伸ばし、甲で頬を軽く叩く。
「礼二郎、起きなさい」
 声を掛けてみたものの、起きる気配は一向にない。
「矢っ張り、この程度じゃ無理か」
 却説、如何しようか。
考えて、総一郎は弟の顳を親指と人差し指で挟み、ぐっと指先に力を込めた。

 一、二、三、四……

 五を、数えたところで手を払い除けられる。
「――…誰だ」 
 いつもよりも低い声。寝起きなので露骨に不機嫌なのは予想の範囲内のこと。
「やっと、起きたね」
 秀麗な笑みで「おはよう」と付け足す。
 すると礼二郎はますます不機嫌な顔をして、
「何で、お前が此処にいるのだ」
 と、何時もより少し低い声で尋ねてきた。
「支度、五分で済ませてね」
「だから、いきなり何なのだ。それよりもまず僕の質問に答えろ」
 半身を起こしてベッド脇に腰掛けている兄を睨む。
「えーと」
 中禅寺とはまた違った意味でまどろっこしい会話になる兄に、寝ているところを邪魔された不機嫌さも手伝って口調がきつくなった。
「母さんがね、この前…ものもらいを患って。眼科――お前が定期健診を受けている所で診ていただいたんだけど。その時、お前のことを尋ねたら…最近、来てないって云われたらしくて。心配してね。電話とか、云うだけだと…お前、返事だけになるだろうからって。連れて行ってくれって、母さんに頼まれたわけ」
「悪くなっているわけではないのだから問題ないだろ」
「うん、でも――実際にそうかは判らないだろう?」
 よく似た顔で微笑って問い掛ける兄を睨んでみたものの、矢張り効果はない。
「……目は、もうハハの所為ではない」
 子供の頃から慥かに視力は弱かったし、生まれ付いてのものだったから母親が気に病んでいたことも知っている。しかし――それが悪化したのはあの戦争で照明弾をまともに食らってしまったからであって、現在左目の視力がほとんどないのはもう母親の責任ではない。
「それでも、だよ。心配してる」
「困るようなことになったら云われなくても行くよ」
「強情だなぁ、お前は」
 可笑しそうに微笑って、宥めるように兄は言葉を継ぐ。
「片方が、極端に悪い場合…それを補うべく、もう片方に余計な負荷がかかるのは解るね?」
「だから何だ」
「まだ見えているその右目の視力だって、気を付けていないと…視力が落ちてしまうかもしれないだろう? そうなる前に、出来るだけ長く――せめて現状維持を、出来ればささやかでも改善を、するための努力はしなければ」
 返す言葉を探して礼二郎は沈黙で答えた。
 これまでも、風邪などで高熱に浮かされている時やその後、一時的に視力を失ったこともある。その時は――見えないくせに例のモノは視えて、それが煩わしくて。その状態がずっと続くことになったらなんて想像もしたくない事態ではあった。
「お前は、見えなくて困ることもあまりないかもしれないけど――それでも、見えるから判ることも、解ることもあるだろう?」
「…………」
「今はね、遠くの何時か…くらいの時間に思ってるかもしれないけど。本当に遠くなのかって保証もないし」
 何時もの穏やかな表情に、少しだけ憂いの色を混ぜて総一郎は優しく諭すように沈黙する。
 云い返せる言葉もなくて礼二郎は一つ小さな溜息を吐いた。
「まったく、何でこう京極といいソウといい、まわりくどい説明が好きなのだ」
「そう?」
「行けばいいのだろう? 支度をするから五分くらい其処で待っていろ」
「うん、それでいいよ」
 ベッドから抜け出して、適当に服を選んで着替えを済ませる。
 部屋から出て、応接スペースで妙に小さくなっておとなしい探偵助手と和寅を一瞥して洗面所に向かい、洗顔して身形を整え鏡に映った自分を見た。
 鏡面に映し出された左目に触れる。
 この目が、遠くの何時か見えなくなることもないとは云い切れない。もし、そうなったら――それは、嘘吐きな古書肆の強がりを見逃すことに繋がるのかもしれない。そうして重ねた強がりに縛られて、古書肆はそれを自分が負うべき咎と諦めて、痛みを全て自分独りで抱えて生きることになるのではないかと危ぶまれた。
 見えなくなることよりも、そんな事態の方が余程堪える。
 部屋に戻り、相変わらずベッド脇に腰掛けて自分が戻って来るのを待っていた兄を「行くぞ」と急かした。
 何かに気付いたように、兄は微苦笑して立ち上がりゆっくりと歩み寄って来る。
「ちょっと、脅かし過ぎたかな」
 頬に手を滑らせて、親指でゆっくりと――左目の周りをまるくなぞった。
「皆、心配しているよ」
「……知っている」
「中禅寺君も」
 突然口にされた名前に、礼二郎の心臓がドクンと跳ねる。
「何で彼奴の名前が出てくる」
「似てるから、解るのかな。――あ、僕とお前じゃなくて、お前と中禅寺君が…ね」
「似てる?」
「うん。お前も彼も――抱えてるものが似てるかなって、思ったんだけど」
 だから、ソウは侮れない。
 口にはせずに毒吐いて溜息を吐き、手を払い除けてドアに足を向ける。
「ソウの戯言に付き合うほど僕は暇じゃない。早くしろ」
「はいはい」
 兄は気にした様子もなく、ドアを開け先に部屋を出た弟を追うように部屋を後にした。
「ちょっと、礼二郎を借りるよ」
 応接スペースでまだ小さくなっている益田と和寅に声を掛けて、無言でさっさと事務所を後にし階段を下りていく弟を、ゆっくりとした足取りで追いかけた。
 明り取りの窓から差し込む光は薄く、二人分の跫が不揃いに刻まれていく。
 仮令これが悪足掻きでも、遠くの何時かが何時までも訪れぬようにと願う。
「遅い! 僕を叩き起こしておいて僕を待たせるなッ」
 ぼんやりと思い遣っていると、下から礼二郎の急かす声が聞こえてきた。
「今行くよ」
 苦笑して、足を速めて階段を下りる。
 妙なところで律儀な弟は、急かした場所で兄が追い付くのを待っていた。
「帰り、この前見つけた洋菓子店に寄ろうか」
「僕は焼菓子とかスポンジケーキの類には興味なんかないぞ」
「偶には、お茶菓子くらい持って行きなさい」
 明確な行き先など口にしてもいないのに、その笑顔は明らかに――特定の場所を示していた。
 何処まで気付かれているのか計れず礼二郎は口を閉ざす。
 そんな弟を揶揄うでもなく追い越して、総一郎は先を行く。
 二人分の跫が、今度は重なって階段室に消えていった。


備考>これは…いつだろう。昨年の6月のシティだったかな。前日保護者会の打ち上げで、3時半まで飲んでて帰宅して2時間しか寝てない中行って、その日も飲んで帰ってきた。
    
 
 

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