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真壁華夜がその日・その時感じたことや考えたことの整理或いは備忘録的に使われることもあれば萌えメモとして使われることもあるし、日常の愚痴をこぼしていることもあるかと思います。基本的に偏屈な管理人sが綴っているのでその辺を許容できる人向け。反感買いそうなものは裏日記に書くようにしています。
2010/05/29 (Sat)
00:46:46
伊豆の事件からどれほどの歳月が流れただろうか。
二人の男はまた、対峙し睨み合っている。
「また、私の邪魔をするか? 中禅寺よ」
互いに出方を窺って硬直状態が続いた中、一方が口許に不適な笑みを浮かべて沈黙を破った。
「彼方こそ――一体何時まで僕を振り回すお心算ですか? 大佐」
言葉の応酬。
淡淡と、何時もと変わらない表情に見えて――その実、幾つもの棘を内包したそれは見ている者達に緊張を伝える。
「今度こそ、築地の男も愛想を尽かすのではないか?」
その言葉に、中禅寺の眉が僅かに反応を見せた。
「図星か」
「……彼方に、何の関係が?」
「貴様はもう少し賢い人間だと思っていたが…如何やら、私の買い被り過ぎだったようだな」
一陣の風が、中禅寺の式服をはためかせた。
漆黒の着流し。清明桔梗を染め抜いた、式服。
「如何とでも仰って下さい。私自身、嫌気が差しているのですから」
「ほう…なら放っておけば良い」
「そう、出来たら良かったと――私も、思いますよ」
苦い顔をして吐き捨てる。
緊張を増す空気に、居合わせた者達が固唾を呑んだ。
今回も、中禅寺は最後まで躊躇っていた。
道を、示してもらうべく明石を訪れもしたが、前回同様に介入を否定された。介入するような愚行に出るなら今度こそ縁を切ると脅されもした。
それでも――放っておけずにこうして此処まで来てしまった。
付き纏う過去。
忘れたい時間。
如何して、自分を放っておいてくれないのだろう。
葛藤を、握り潰そうとでもするかのように手に力を込める。
「強がるな。貴様の脆さをこの私が忘れたとでも思っているのか?」
「貴様……!」
「榎さん」
静かな、ひどく静かな声に静止されて男は言葉を飲み込んだ。
「反応してはいけない。それでは、あの男の思う壺です」
解っていた。
あの、伊豆での再会から。
蓋をしていた過去を紐解かれてから、ずっと。
この日までの空白は、だから、覚悟を決めるまでの猶予。
「解らんな」
「……何が、ですか?」
「其処まで解っていながら貴様が私の邪魔をする理由だ」
自重するように、中禅寺は笑みを見せる。
「そんなもの――僕が知りたいくらいですよ」
気に入らない。
ただ、そんな些細なことなのかもしれない。
「彼方には退屈なだけかもしれませんがね、堂島さん」
目を閉じて思い出す。
失くしたのだと思った人。
今は、手の届くところにいる。
「僕はこの、平穏な日常を気に入っているんですよ」
「下らんな」
「彼方の価値観に興味はありません」
「云うようになったではないか」
「強いて理由を挙げるなら――そうですね、彼方が気に入らない。それだけですよ」
「面白い。矢張り、こうなる宿命だったようだな」中禅寺。
勝ち誇ったように哂う男。
「そうですね」
深い溜息。
「彼方を倒さなければ、僕は進めないようですので」
忌忌しいこの因縁を断ち切るべく。
「僕は、僕の平穏のために僕の持てる総ての言葉で彼方の総てを否定します」
「それも良かろう」
余裕を見せ付けるような笑み。
そして始まる言葉による攻防。
聞いている者の価値観を揺るがして、不安を煽り焦燥を煽る。
――…そこへ。
駆け寄る跫。
堂島の側に付いていた男が、揺さぶられた価値観に過剰反応して二人の間に割り込んだ。
「中禅寺!」
その手には、刃物の煌きがあって。
己の――堂島によって刷り込まれた堂島の価値観を――否定し続ける男に向けられた憎悪の行動。
止めるには、榎木津の位置から陰陽師の位置は遠過ぎた。
衝撃。
けれど、それは刃物によるものではない。
突き飛ばされ、地面に衝突したことによるもの。
自分を庇った存在が信じられず中禅寺はただ呆然と目を見開く。
「大…佐……?」
「意外か? しかし、お前は今死ぬべきではない」
「如何して」
「貴様を試したいたがために仕組んでは見たが…使えん男が紛れ込んでいたようだな。これでは、折角の舞台が台無しだ」
堂島を刺した男はその場にへたり込み、自分の行為に自我を失う寸前の様相を呈していた。
「愚か者が」
その男の首に手を伸ばし、堂島は一瞬にして男の気を失わせる。
「中禅寺」
肩越しに振り返ったその顔は、蒼白めいているが不敵でもあった。
「この命、貴様に呉れてやろう」
「……大…佐?」
「証明してみるが良い。貴様の正しさをな」
「大佐!」
意識を失い倒れた男を、憎んでいたはずなのに中禅寺は抱え起こす。
「 」
掠れた声で紡がれた最期の言葉に中禅寺は耳を疑った。
「これからも、私は…彼方が世界で一番嫌いですよ。大佐」
そう紡がれた応えはしかし、堂島の耳に届くことはなかった。
<続>
二人の男はまた、対峙し睨み合っている。
「また、私の邪魔をするか? 中禅寺よ」
互いに出方を窺って硬直状態が続いた中、一方が口許に不適な笑みを浮かべて沈黙を破った。
「彼方こそ――一体何時まで僕を振り回すお心算ですか? 大佐」
言葉の応酬。
淡淡と、何時もと変わらない表情に見えて――その実、幾つもの棘を内包したそれは見ている者達に緊張を伝える。
「今度こそ、築地の男も愛想を尽かすのではないか?」
その言葉に、中禅寺の眉が僅かに反応を見せた。
「図星か」
「……彼方に、何の関係が?」
「貴様はもう少し賢い人間だと思っていたが…如何やら、私の買い被り過ぎだったようだな」
一陣の風が、中禅寺の式服をはためかせた。
漆黒の着流し。清明桔梗を染め抜いた、式服。
「如何とでも仰って下さい。私自身、嫌気が差しているのですから」
「ほう…なら放っておけば良い」
「そう、出来たら良かったと――私も、思いますよ」
苦い顔をして吐き捨てる。
緊張を増す空気に、居合わせた者達が固唾を呑んだ。
今回も、中禅寺は最後まで躊躇っていた。
道を、示してもらうべく明石を訪れもしたが、前回同様に介入を否定された。介入するような愚行に出るなら今度こそ縁を切ると脅されもした。
それでも――放っておけずにこうして此処まで来てしまった。
付き纏う過去。
忘れたい時間。
如何して、自分を放っておいてくれないのだろう。
葛藤を、握り潰そうとでもするかのように手に力を込める。
「強がるな。貴様の脆さをこの私が忘れたとでも思っているのか?」
「貴様……!」
「榎さん」
静かな、ひどく静かな声に静止されて男は言葉を飲み込んだ。
「反応してはいけない。それでは、あの男の思う壺です」
解っていた。
あの、伊豆での再会から。
蓋をしていた過去を紐解かれてから、ずっと。
この日までの空白は、だから、覚悟を決めるまでの猶予。
「解らんな」
「……何が、ですか?」
「其処まで解っていながら貴様が私の邪魔をする理由だ」
自重するように、中禅寺は笑みを見せる。
「そんなもの――僕が知りたいくらいですよ」
気に入らない。
ただ、そんな些細なことなのかもしれない。
「彼方には退屈なだけかもしれませんがね、堂島さん」
目を閉じて思い出す。
失くしたのだと思った人。
今は、手の届くところにいる。
「僕はこの、平穏な日常を気に入っているんですよ」
「下らんな」
「彼方の価値観に興味はありません」
「云うようになったではないか」
「強いて理由を挙げるなら――そうですね、彼方が気に入らない。それだけですよ」
「面白い。矢張り、こうなる宿命だったようだな」中禅寺。
勝ち誇ったように哂う男。
「そうですね」
深い溜息。
「彼方を倒さなければ、僕は進めないようですので」
忌忌しいこの因縁を断ち切るべく。
「僕は、僕の平穏のために僕の持てる総ての言葉で彼方の総てを否定します」
「それも良かろう」
余裕を見せ付けるような笑み。
そして始まる言葉による攻防。
聞いている者の価値観を揺るがして、不安を煽り焦燥を煽る。
――…そこへ。
駆け寄る跫。
堂島の側に付いていた男が、揺さぶられた価値観に過剰反応して二人の間に割り込んだ。
「中禅寺!」
その手には、刃物の煌きがあって。
己の――堂島によって刷り込まれた堂島の価値観を――否定し続ける男に向けられた憎悪の行動。
止めるには、榎木津の位置から陰陽師の位置は遠過ぎた。
衝撃。
けれど、それは刃物によるものではない。
突き飛ばされ、地面に衝突したことによるもの。
自分を庇った存在が信じられず中禅寺はただ呆然と目を見開く。
「大…佐……?」
「意外か? しかし、お前は今死ぬべきではない」
「如何して」
「貴様を試したいたがために仕組んでは見たが…使えん男が紛れ込んでいたようだな。これでは、折角の舞台が台無しだ」
堂島を刺した男はその場にへたり込み、自分の行為に自我を失う寸前の様相を呈していた。
「愚か者が」
その男の首に手を伸ばし、堂島は一瞬にして男の気を失わせる。
「中禅寺」
肩越しに振り返ったその顔は、蒼白めいているが不敵でもあった。
「この命、貴様に呉れてやろう」
「……大…佐?」
「証明してみるが良い。貴様の正しさをな」
「大佐!」
意識を失い倒れた男を、憎んでいたはずなのに中禅寺は抱え起こす。
「 」
掠れた声で紡がれた最期の言葉に中禅寺は耳を疑った。
「これからも、私は…彼方が世界で一番嫌いですよ。大佐」
そう紡がれた応えはしかし、堂島の耳に届くことはなかった。
<続>
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2010/05/29 (Sat)
00:45:51
鬱蒼と木木の生い茂る、武蔵野の森の奥深く。
帝国陸軍が極秘裏に設立した、研究所の一つが其処にある。
使い走りにされるのは末端の宿命。
或る資料を受け取るため、郷嶋はその日遥遥この帝国陸軍第十二研究所まで遣って来た。
その道中。
「――…何だ?」
ふと視線を投げた先、目に付いたのは遺失物らしい長方形の物体。
距離が縮まるとそれが帳面の類であることが判った。
「こんなことを態態書くとは無用心だな」
表紙には『極秘』の文字。
偸閑に不審なシロモノでもある。
「機密事項であることを宣言しておいて、拾われた時に相手が中を改めないとでも思っているならお笑い種だな。それにしても何でこの表紙はこんな色してやがるんだ……?」
赤に属する色ならば、日の丸を意識してのことだと察することも出来る。
しかしこれはそういった、赤や朱や深紅といった色よりもっとくすんでいる。それらの色が褪せたのとも違うようだ。
頭の中で何か嫌なものと一瞬繋がったような気もするが、明瞭としたカタチにならない。
「無用心だな、まったく」
この道を通る人間は限られている。向かう先に届けておけばとりあえず問題無いはずだ。
郷嶋は一つ溜息を吐いて遺失物を回収すると、そのまま暫く歩き続けて目的地――帝国陸軍第十二研究所に辿り着いた。
相変わらず、建物に対して人の気配が稀薄な場所だ。
低く呻る機械音に耳が奇妙しくなってくる。
慣れた足取りで階を上り、とりあえず――二階で面識の或る人間を探した。二階に着くと機械音は少しだけマシになる。慣れてしまうのかもしれないし、階が違う所為で音が気にならないくらいの大きさになってるのかもしれないがどちらなのか未だに判らない。
物音一つ聞こえて来ないこの場所で、自身の跫はやけに響いた。
耳聡いあの男がそれに気付くことを期待して、彼はある部屋に足を向ける。
ドアが軋む音が跫に混じって聞こえて来た。
「……君か」
自分の姿を認めるなり、無遠慮に迷惑そうな顔をする。
「相変わらず今日も仏頂面だな、あんた」
「何の用だい?」
「山辺さんの使い走りさ。例の資料をもらって来いってな」
「それなら美馬坂さんのところに行ってくれないか。僕は預かっていない」
「後は――これだ」
脇に抱えていた遺失物を手に持ち直して見せた。
「来る途中で拾ったんだが…どうせ此処の関係者のものだろう?」
そう云うと、常に不機嫌な顔をしているその男の表情が更に渋面になった。
「君は…まったく」
呆れたと云わんばかりの声で言葉を濁す。
「何だよ」
「そんなものを態態拾って届けるなんて酔狂としか云いようが無い」
「――如何いう意味だ」
「人が好いにも程があるよ」
溜息を吐いて、引っ手繰るように差し出した帳面を郷嶋から奪うと表紙の一点を指で叩いて視線を求めた。
「こんなに判りやすい遺失物もないと思うんだが」
指先を注視してみると、そこに。
「気付くかよ、そんなもの」
「気付かない方が如何かしているよ」
指先には黒い六芒星。そしてその中心には『堂』の文字。
「呆れてものが云えないね」
「一体あの人は何を考えてるんだ?」
「下らないことだろうね、きっと」
云いながら、極秘と書かれたその帳面を躊躇無く開いて目を通した。
「君以上に呆れてものが云えない代物だな」
不愉快そうにまた新しい溜息を重ねた男の手元を郷嶋も覗き込む。
ざっと目を通して郷嶋は、その男の言葉の正しさを知ることとなった。
<続>
帝国陸軍が極秘裏に設立した、研究所の一つが其処にある。
使い走りにされるのは末端の宿命。
或る資料を受け取るため、郷嶋はその日遥遥この帝国陸軍第十二研究所まで遣って来た。
その道中。
「――…何だ?」
ふと視線を投げた先、目に付いたのは遺失物らしい長方形の物体。
距離が縮まるとそれが帳面の類であることが判った。
「こんなことを態態書くとは無用心だな」
表紙には『極秘』の文字。
偸閑に不審なシロモノでもある。
「機密事項であることを宣言しておいて、拾われた時に相手が中を改めないとでも思っているならお笑い種だな。それにしても何でこの表紙はこんな色してやがるんだ……?」
赤に属する色ならば、日の丸を意識してのことだと察することも出来る。
しかしこれはそういった、赤や朱や深紅といった色よりもっとくすんでいる。それらの色が褪せたのとも違うようだ。
頭の中で何か嫌なものと一瞬繋がったような気もするが、明瞭としたカタチにならない。
「無用心だな、まったく」
この道を通る人間は限られている。向かう先に届けておけばとりあえず問題無いはずだ。
郷嶋は一つ溜息を吐いて遺失物を回収すると、そのまま暫く歩き続けて目的地――帝国陸軍第十二研究所に辿り着いた。
相変わらず、建物に対して人の気配が稀薄な場所だ。
低く呻る機械音に耳が奇妙しくなってくる。
慣れた足取りで階を上り、とりあえず――二階で面識の或る人間を探した。二階に着くと機械音は少しだけマシになる。慣れてしまうのかもしれないし、階が違う所為で音が気にならないくらいの大きさになってるのかもしれないがどちらなのか未だに判らない。
物音一つ聞こえて来ないこの場所で、自身の跫はやけに響いた。
耳聡いあの男がそれに気付くことを期待して、彼はある部屋に足を向ける。
ドアが軋む音が跫に混じって聞こえて来た。
「……君か」
自分の姿を認めるなり、無遠慮に迷惑そうな顔をする。
「相変わらず今日も仏頂面だな、あんた」
「何の用だい?」
「山辺さんの使い走りさ。例の資料をもらって来いってな」
「それなら美馬坂さんのところに行ってくれないか。僕は預かっていない」
「後は――これだ」
脇に抱えていた遺失物を手に持ち直して見せた。
「来る途中で拾ったんだが…どうせ此処の関係者のものだろう?」
そう云うと、常に不機嫌な顔をしているその男の表情が更に渋面になった。
「君は…まったく」
呆れたと云わんばかりの声で言葉を濁す。
「何だよ」
「そんなものを態態拾って届けるなんて酔狂としか云いようが無い」
「――如何いう意味だ」
「人が好いにも程があるよ」
溜息を吐いて、引っ手繰るように差し出した帳面を郷嶋から奪うと表紙の一点を指で叩いて視線を求めた。
「こんなに判りやすい遺失物もないと思うんだが」
指先を注視してみると、そこに。
「気付くかよ、そんなもの」
「気付かない方が如何かしているよ」
指先には黒い六芒星。そしてその中心には『堂』の文字。
「呆れてものが云えないね」
「一体あの人は何を考えてるんだ?」
「下らないことだろうね、きっと」
云いながら、極秘と書かれたその帳面を躊躇無く開いて目を通した。
「君以上に呆れてものが云えない代物だな」
不愉快そうにまた新しい溜息を重ねた男の手元を郷嶋も覗き込む。
ざっと目を通して郷嶋は、その男の言葉の正しさを知ることとなった。
<続>
2010/05/29 (Sat)
00:44:03
幾度も幾度も繰り返されて日常として確立された時間。それをなぞるように今日も、薔薇十字探偵社の一日は始まった。
探偵助手の益田が出勤してくる前に秘書兼給仕役の和寅は自分の朝食を済ませ、社内の掃除を終えて小休止。お茶を啜っていると程なくして益田が現れる。そして調査の報告書の作成などの事務作業をしながら世間話に花を咲かせ、午前中を遣り過ごす。
いつも通りの午前だった。
いつも通りの午前のはず――だった。
お茶を淹れ直すため和寅が炊事場に下ったのを見送って、益田はひとつ欠伸をこぼし伸びをする。
いつも通りの午前が壊されたのはその矢先のことだった。
「……お客さんかな?」
ドア越しに靴音が微かに聞こえてきた。
そそくさとテーブルの上を片付けて、客を迎える準備をする。
カラン。
ドアベルが軽やかな音を立てた。
「いらっしゃいま――」
え?
「あの」
目を疑った。
慌てて探偵の私室の方に目を遣り確かめる。益田が出勤してから今の今まで一度もドアは開かなかったはずだ。
それなのに。
「え、え……」
言葉が出ない。
そんな――そんな馬鹿な話はないだろう。
外泊をして今戻って来た?
いや、それならそうと和寅が云うはずだ。ついさっきまで世間話をしていたのだし。
「榎木津さん、な…な、中に」
和寅に黙れていた?
いやそれもないだろう。
では。
「中に、いたんじゃないんですか?」
その問いに、榎木津は少し驚いたような顔をして、
「ん? あぁ…違う。えーと、君は…益田君、だったかな?」
と、恐ろしい科白を返してきた。
血の気が引くのが自分でも判る。
人の名前を悉くいい加減に呼ぶ榎木津が、正しく名前を呼んだ上敬称まで付けるなんて尋常ではない。何かそんな――そんなにひどく怒らせるようなことを自分はしてしまったのだろうか。
必死に思い出そうとしてみるが、困ったことに心当たりがまるで見当たらない。というかそもそも榎木津の怒りのツボが理解出来ない。そのため何が気に障ったのか、考え出したらキリがない。
「す…すみません僕が悪かったですすみませんすみません」
「え? 僕…何かされた?」
その問いはしかし、益田の耳には届かない。
「困ったな」
然程困った様子でもなく呟くと、こちらの慌しい様子に気付いてか和寅が戻って来た。
「一体如何したっていうんだ益田君」
「あぁ、丁度良かった」
「へ? せ…先生?! もう起きたんでやすか?」
「違うってば。僕、総一郎だよ」
「え? あ…総一郎様でやしたか。し、失礼しました!」
「ところで――彼奴はまだ寝てるのかな?」
「多分、そうだと思います」
「そう。ありがと」
微笑して口にすると、総一郎はそのまま真っ直ぐ榎木津の私室に這入っていった。
ガチャッ
ドアが軋み、小さな音を立てて閉まる。
それにやっと我に返った益田は暫し呆然と探偵の私室を眺めていた。
「あれ? 和寅さん?」
そしてやっと和寅に気付く。
「益田君、わたしが戻って来たのにも気付いてなかったんですかい?」
「はぁ…すみません。今気付きました」
「まったく、君もそそっかしいなぁ」
「な…何がですよ。普通慌てますよそんな――って、あれ? 榎木津さんは?」
「まったく、君もそそっかしいなぁ。確かにうちの先生と総一郎様はお付き合いの長いあっしも間違えるほどよく似ていらっしゃいますがね」
「だから、僕あたりじゃ間違えて当然じゃないですか」
云い返して、気付く。真逆――。
「さっきのは総一郎様だ。全く、お話も聞かずに勘違いして醜態を晒すなんて」
小馬鹿にしたように溜息を吐いて肩を竦め、脱力してその場にしゃがみこんだ益田を少し哀れむような目で見下ろすと。
「とにかく、お茶を淹れ直すから少し落ち着いたらいい。総一郎様がいらしたんじゃ我我はお邪魔かもしれないからね」
そう云って和寅がまた炊事場に引き上げる跫を、探偵の私室のドア越しに聞いて――総一郎は苦笑し弟の眠るベッドの傍らに腰を下ろした。
手を伸ばし、甲で頬を軽く叩く。
「礼二郎、起きなさい」
声を掛けてみたものの、起きる気配は一向にない。
「矢っ張り、この程度じゃ無理か」
却説、如何しようか。
考えて、総一郎は弟の顳を親指と人差し指で挟み、ぐっと指先に力を込めた。
一、二、三、四……
五を、数えたところで手を払い除けられる。
「――…誰だ」
いつもよりも低い声。寝起きなので露骨に不機嫌なのは予想の範囲内のこと。
「やっと、起きたね」
秀麗な笑みで「おはよう」と付け足す。
すると礼二郎はますます不機嫌な顔をして、
「何で、お前が此処にいるのだ」
と、何時もより少し低い声で尋ねてきた。
「支度、五分で済ませてね」
「だから、いきなり何なのだ。それよりもまず僕の質問に答えろ」
半身を起こしてベッド脇に腰掛けている兄を睨む。
「えーと」
中禅寺とはまた違った意味でまどろっこしい会話になる兄に、寝ているところを邪魔された不機嫌さも手伝って口調がきつくなった。
「母さんがね、この前…ものもらいを患って。眼科――お前が定期健診を受けている所で診ていただいたんだけど。その時、お前のことを尋ねたら…最近、来てないって云われたらしくて。心配してね。電話とか、云うだけだと…お前、返事だけになるだろうからって。連れて行ってくれって、母さんに頼まれたわけ」
「悪くなっているわけではないのだから問題ないだろ」
「うん、でも――実際にそうかは判らないだろう?」
よく似た顔で微笑って問い掛ける兄を睨んでみたものの、矢張り効果はない。
「……目は、もうハハの所為ではない」
子供の頃から慥かに視力は弱かったし、生まれ付いてのものだったから母親が気に病んでいたことも知っている。しかし――それが悪化したのはあの戦争で照明弾をまともに食らってしまったからであって、現在左目の視力がほとんどないのはもう母親の責任ではない。
「それでも、だよ。心配してる」
「困るようなことになったら云われなくても行くよ」
「強情だなぁ、お前は」
可笑しそうに微笑って、宥めるように兄は言葉を継ぐ。
「片方が、極端に悪い場合…それを補うべく、もう片方に余計な負荷がかかるのは解るね?」
「だから何だ」
「まだ見えているその右目の視力だって、気を付けていないと…視力が落ちてしまうかもしれないだろう? そうなる前に、出来るだけ長く――せめて現状維持を、出来ればささやかでも改善を、するための努力はしなければ」
返す言葉を探して礼二郎は沈黙で答えた。
これまでも、風邪などで高熱に浮かされている時やその後、一時的に視力を失ったこともある。その時は――見えないくせに例のモノは視えて、それが煩わしくて。その状態がずっと続くことになったらなんて想像もしたくない事態ではあった。
「お前は、見えなくて困ることもあまりないかもしれないけど――それでも、見えるから判ることも、解ることもあるだろう?」
「…………」
「今はね、遠くの何時か…くらいの時間に思ってるかもしれないけど。本当に遠くなのかって保証もないし」
何時もの穏やかな表情に、少しだけ憂いの色を混ぜて総一郎は優しく諭すように沈黙する。
云い返せる言葉もなくて礼二郎は一つ小さな溜息を吐いた。
「まったく、何でこう京極といいソウといい、まわりくどい説明が好きなのだ」
「そう?」
「行けばいいのだろう? 支度をするから五分くらい其処で待っていろ」
「うん、それでいいよ」
ベッドから抜け出して、適当に服を選んで着替えを済ませる。
部屋から出て、応接スペースで妙に小さくなっておとなしい探偵助手と和寅を一瞥して洗面所に向かい、洗顔して身形を整え鏡に映った自分を見た。
鏡面に映し出された左目に触れる。
この目が、遠くの何時か見えなくなることもないとは云い切れない。もし、そうなったら――それは、嘘吐きな古書肆の強がりを見逃すことに繋がるのかもしれない。そうして重ねた強がりに縛られて、古書肆はそれを自分が負うべき咎と諦めて、痛みを全て自分独りで抱えて生きることになるのではないかと危ぶまれた。
見えなくなることよりも、そんな事態の方が余程堪える。
部屋に戻り、相変わらずベッド脇に腰掛けて自分が戻って来るのを待っていた兄を「行くぞ」と急かした。
何かに気付いたように、兄は微苦笑して立ち上がりゆっくりと歩み寄って来る。
「ちょっと、脅かし過ぎたかな」
頬に手を滑らせて、親指でゆっくりと――左目の周りをまるくなぞった。
「皆、心配しているよ」
「……知っている」
「中禅寺君も」
突然口にされた名前に、礼二郎の心臓がドクンと跳ねる。
「何で彼奴の名前が出てくる」
「似てるから、解るのかな。――あ、僕とお前じゃなくて、お前と中禅寺君が…ね」
「似てる?」
「うん。お前も彼も――抱えてるものが似てるかなって、思ったんだけど」
だから、ソウは侮れない。
口にはせずに毒吐いて溜息を吐き、手を払い除けてドアに足を向ける。
「ソウの戯言に付き合うほど僕は暇じゃない。早くしろ」
「はいはい」
兄は気にした様子もなく、ドアを開け先に部屋を出た弟を追うように部屋を後にした。
「ちょっと、礼二郎を借りるよ」
応接スペースでまだ小さくなっている益田と和寅に声を掛けて、無言でさっさと事務所を後にし階段を下りていく弟を、ゆっくりとした足取りで追いかけた。
明り取りの窓から差し込む光は薄く、二人分の跫が不揃いに刻まれていく。
仮令これが悪足掻きでも、遠くの何時かが何時までも訪れぬようにと願う。
「遅い! 僕を叩き起こしておいて僕を待たせるなッ」
ぼんやりと思い遣っていると、下から礼二郎の急かす声が聞こえてきた。
「今行くよ」
苦笑して、足を速めて階段を下りる。
妙なところで律儀な弟は、急かした場所で兄が追い付くのを待っていた。
「帰り、この前見つけた洋菓子店に寄ろうか」
「僕は焼菓子とかスポンジケーキの類には興味なんかないぞ」
「偶には、お茶菓子くらい持って行きなさい」
明確な行き先など口にしてもいないのに、その笑顔は明らかに――特定の場所を示していた。
何処まで気付かれているのか計れず礼二郎は口を閉ざす。
そんな弟を揶揄うでもなく追い越して、総一郎は先を行く。
二人分の跫が、今度は重なって階段室に消えていった。
備考>これは…いつだろう。昨年の6月のシティだったかな。前日保護者会の打ち上げで、3時半まで飲んでて帰宅して2時間しか寝てない中行って、その日も飲んで帰ってきた。
幾度も幾度も繰り返されて日常として確立された時間。それをなぞるように今日も、薔薇十字探偵社の一日は始まった。
探偵助手の益田が出勤してくる前に秘書兼給仕役の和寅は自分の朝食を済ませ、社内の掃除を終えて小休止。お茶を啜っていると程なくして益田が現れる。そして調査の報告書の作成などの事務作業をしながら世間話に花を咲かせ、午前中を遣り過ごす。
いつも通りの午前だった。
いつも通りの午前のはず――だった。
お茶を淹れ直すため和寅が炊事場に下ったのを見送って、益田はひとつ欠伸をこぼし伸びをする。
いつも通りの午前が壊されたのはその矢先のことだった。
「……お客さんかな?」
ドア越しに靴音が微かに聞こえてきた。
そそくさとテーブルの上を片付けて、客を迎える準備をする。
カラン。
ドアベルが軽やかな音を立てた。
「いらっしゃいま――」
え?
「あの」
目を疑った。
慌てて探偵の私室の方に目を遣り確かめる。益田が出勤してから今の今まで一度もドアは開かなかったはずだ。
それなのに。
「え、え……」
言葉が出ない。
そんな――そんな馬鹿な話はないだろう。
外泊をして今戻って来た?
いや、それならそうと和寅が云うはずだ。ついさっきまで世間話をしていたのだし。
「榎木津さん、な…な、中に」
和寅に黙れていた?
いやそれもないだろう。
では。
「中に、いたんじゃないんですか?」
その問いに、榎木津は少し驚いたような顔をして、
「ん? あぁ…違う。えーと、君は…益田君、だったかな?」
と、恐ろしい科白を返してきた。
血の気が引くのが自分でも判る。
人の名前を悉くいい加減に呼ぶ榎木津が、正しく名前を呼んだ上敬称まで付けるなんて尋常ではない。何かそんな――そんなにひどく怒らせるようなことを自分はしてしまったのだろうか。
必死に思い出そうとしてみるが、困ったことに心当たりがまるで見当たらない。というかそもそも榎木津の怒りのツボが理解出来ない。そのため何が気に障ったのか、考え出したらキリがない。
「す…すみません僕が悪かったですすみませんすみません」
「え? 僕…何かされた?」
その問いはしかし、益田の耳には届かない。
「困ったな」
然程困った様子でもなく呟くと、こちらの慌しい様子に気付いてか和寅が戻って来た。
「一体如何したっていうんだ益田君」
「あぁ、丁度良かった」
「へ? せ…先生?! もう起きたんでやすか?」
「違うってば。僕、総一郎だよ」
「え? あ…総一郎様でやしたか。し、失礼しました!」
「ところで――彼奴はまだ寝てるのかな?」
「多分、そうだと思います」
「そう。ありがと」
微笑して口にすると、総一郎はそのまま真っ直ぐ榎木津の私室に這入っていった。
ガチャッ
ドアが軋み、小さな音を立てて閉まる。
それにやっと我に返った益田は暫し呆然と探偵の私室を眺めていた。
「あれ? 和寅さん?」
そしてやっと和寅に気付く。
「益田君、わたしが戻って来たのにも気付いてなかったんですかい?」
「はぁ…すみません。今気付きました」
「まったく、君もそそっかしいなぁ」
「な…何がですよ。普通慌てますよそんな――って、あれ? 榎木津さんは?」
「まったく、君もそそっかしいなぁ。確かにうちの先生と総一郎様はお付き合いの長いあっしも間違えるほどよく似ていらっしゃいますがね」
「だから、僕あたりじゃ間違えて当然じゃないですか」
云い返して、気付く。真逆――。
「さっきのは総一郎様だ。全く、お話も聞かずに勘違いして醜態を晒すなんて」
小馬鹿にしたように溜息を吐いて肩を竦め、脱力してその場にしゃがみこんだ益田を少し哀れむような目で見下ろすと。
「とにかく、お茶を淹れ直すから少し落ち着いたらいい。総一郎様がいらしたんじゃ我我はお邪魔かもしれないからね」
そう云って和寅がまた炊事場に引き上げる跫を、探偵の私室のドア越しに聞いて――総一郎は苦笑し弟の眠るベッドの傍らに腰を下ろした。
手を伸ばし、甲で頬を軽く叩く。
「礼二郎、起きなさい」
声を掛けてみたものの、起きる気配は一向にない。
「矢っ張り、この程度じゃ無理か」
却説、如何しようか。
考えて、総一郎は弟の顳を親指と人差し指で挟み、ぐっと指先に力を込めた。
一、二、三、四……
五を、数えたところで手を払い除けられる。
「――…誰だ」
いつもよりも低い声。寝起きなので露骨に不機嫌なのは予想の範囲内のこと。
「やっと、起きたね」
秀麗な笑みで「おはよう」と付け足す。
すると礼二郎はますます不機嫌な顔をして、
「何で、お前が此処にいるのだ」
と、何時もより少し低い声で尋ねてきた。
「支度、五分で済ませてね」
「だから、いきなり何なのだ。それよりもまず僕の質問に答えろ」
半身を起こしてベッド脇に腰掛けている兄を睨む。
「えーと」
中禅寺とはまた違った意味でまどろっこしい会話になる兄に、寝ているところを邪魔された不機嫌さも手伝って口調がきつくなった。
「母さんがね、この前…ものもらいを患って。眼科――お前が定期健診を受けている所で診ていただいたんだけど。その時、お前のことを尋ねたら…最近、来てないって云われたらしくて。心配してね。電話とか、云うだけだと…お前、返事だけになるだろうからって。連れて行ってくれって、母さんに頼まれたわけ」
「悪くなっているわけではないのだから問題ないだろ」
「うん、でも――実際にそうかは判らないだろう?」
よく似た顔で微笑って問い掛ける兄を睨んでみたものの、矢張り効果はない。
「……目は、もうハハの所為ではない」
子供の頃から慥かに視力は弱かったし、生まれ付いてのものだったから母親が気に病んでいたことも知っている。しかし――それが悪化したのはあの戦争で照明弾をまともに食らってしまったからであって、現在左目の視力がほとんどないのはもう母親の責任ではない。
「それでも、だよ。心配してる」
「困るようなことになったら云われなくても行くよ」
「強情だなぁ、お前は」
可笑しそうに微笑って、宥めるように兄は言葉を継ぐ。
「片方が、極端に悪い場合…それを補うべく、もう片方に余計な負荷がかかるのは解るね?」
「だから何だ」
「まだ見えているその右目の視力だって、気を付けていないと…視力が落ちてしまうかもしれないだろう? そうなる前に、出来るだけ長く――せめて現状維持を、出来ればささやかでも改善を、するための努力はしなければ」
返す言葉を探して礼二郎は沈黙で答えた。
これまでも、風邪などで高熱に浮かされている時やその後、一時的に視力を失ったこともある。その時は――見えないくせに例のモノは視えて、それが煩わしくて。その状態がずっと続くことになったらなんて想像もしたくない事態ではあった。
「お前は、見えなくて困ることもあまりないかもしれないけど――それでも、見えるから判ることも、解ることもあるだろう?」
「…………」
「今はね、遠くの何時か…くらいの時間に思ってるかもしれないけど。本当に遠くなのかって保証もないし」
何時もの穏やかな表情に、少しだけ憂いの色を混ぜて総一郎は優しく諭すように沈黙する。
云い返せる言葉もなくて礼二郎は一つ小さな溜息を吐いた。
「まったく、何でこう京極といいソウといい、まわりくどい説明が好きなのだ」
「そう?」
「行けばいいのだろう? 支度をするから五分くらい其処で待っていろ」
「うん、それでいいよ」
ベッドから抜け出して、適当に服を選んで着替えを済ませる。
部屋から出て、応接スペースで妙に小さくなっておとなしい探偵助手と和寅を一瞥して洗面所に向かい、洗顔して身形を整え鏡に映った自分を見た。
鏡面に映し出された左目に触れる。
この目が、遠くの何時か見えなくなることもないとは云い切れない。もし、そうなったら――それは、嘘吐きな古書肆の強がりを見逃すことに繋がるのかもしれない。そうして重ねた強がりに縛られて、古書肆はそれを自分が負うべき咎と諦めて、痛みを全て自分独りで抱えて生きることになるのではないかと危ぶまれた。
見えなくなることよりも、そんな事態の方が余程堪える。
部屋に戻り、相変わらずベッド脇に腰掛けて自分が戻って来るのを待っていた兄を「行くぞ」と急かした。
何かに気付いたように、兄は微苦笑して立ち上がりゆっくりと歩み寄って来る。
「ちょっと、脅かし過ぎたかな」
頬に手を滑らせて、親指でゆっくりと――左目の周りをまるくなぞった。
「皆、心配しているよ」
「……知っている」
「中禅寺君も」
突然口にされた名前に、礼二郎の心臓がドクンと跳ねる。
「何で彼奴の名前が出てくる」
「似てるから、解るのかな。――あ、僕とお前じゃなくて、お前と中禅寺君が…ね」
「似てる?」
「うん。お前も彼も――抱えてるものが似てるかなって、思ったんだけど」
だから、ソウは侮れない。
口にはせずに毒吐いて溜息を吐き、手を払い除けてドアに足を向ける。
「ソウの戯言に付き合うほど僕は暇じゃない。早くしろ」
「はいはい」
兄は気にした様子もなく、ドアを開け先に部屋を出た弟を追うように部屋を後にした。
「ちょっと、礼二郎を借りるよ」
応接スペースでまだ小さくなっている益田と和寅に声を掛けて、無言でさっさと事務所を後にし階段を下りていく弟を、ゆっくりとした足取りで追いかけた。
明り取りの窓から差し込む光は薄く、二人分の跫が不揃いに刻まれていく。
仮令これが悪足掻きでも、遠くの何時かが何時までも訪れぬようにと願う。
「遅い! 僕を叩き起こしておいて僕を待たせるなッ」
ぼんやりと思い遣っていると、下から礼二郎の急かす声が聞こえてきた。
「今行くよ」
苦笑して、足を速めて階段を下りる。
妙なところで律儀な弟は、急かした場所で兄が追い付くのを待っていた。
「帰り、この前見つけた洋菓子店に寄ろうか」
「僕は焼菓子とかスポンジケーキの類には興味なんかないぞ」
「偶には、お茶菓子くらい持って行きなさい」
明確な行き先など口にしてもいないのに、その笑顔は明らかに――特定の場所を示していた。
何処まで気付かれているのか計れず礼二郎は口を閉ざす。
そんな弟を揶揄うでもなく追い越して、総一郎は先を行く。
二人分の跫が、今度は重なって階段室に消えていった。
備考>これは…いつだろう。昨年の6月のシティだったかな。前日保護者会の打ち上げで、3時半まで飲んでて帰宅して2時間しか寝てない中行って、その日も飲んで帰ってきた。
2010/05/29 (Sat)
00:40:47
「この…バカオロカめ、やり直しだッ!!」
端整な顔を怒り一色で染め上げて、探偵は助手を怒鳴りつけると深深と溜め息を吐き大袈裟に嘆いた。
「まったく、何でこうもオロカなのだ。サガシやシラベは下僕の役目だから任せたというのに何という失態! 何という無能さ」
「え? ちょっと、待って下さい」
突然の罵倒はいつものことだが出掛ける前は確か「カマも偶には役に立つじゃないか」とどちらかと云えば上機嫌だったはずだ。詰られる原因として思いつくところは現状では唯一つ。しかし。
「僕ァ事前に断ったじゃないですか…多分榎木津さん好みの食感ではありませんよって」
「違ぁーう!」
年齢にも顔にも不相応に間延びした声で、探偵は眉間の皺を更に深くする。
「悪いのは洋菓子じゃなくて店だッ!」
「店?」
ますます解らない。
「いいからすぐにやら直す! 早く別の店を見つけて来いッ!!」
「見つけるって」
憤慨している当の榎木津からは、珍しい洋菓子を扱っている店か珍しい洋菓子を探してこいという指示しか受けておらず、かなり苦労して探し出した店は否定されてしまったのだからせめて何が気に入らなかったのかくらい教えてもらわなければ探しようもない。
「無能」
「はぁ、仰る通り僕は中禅寺さんみたいに云われずとも榎木津さんの云いたいところを察するなんて芸当出来ません」
そう返すと探偵はますます嫌そうな顔をして、
「……口にするのも不愉快だから一度しか云わないぞ」
と、この上なく不機嫌な顔を断った。
「はぁ」
本当に、最上級の嫌そうな顔をして、それでも探偵は「あー」とか「うー」とか煮え切らない声を発し、やがて深い溜め息を吐いて口にする。
「いいか、ソウが知らないことが条件だ! 解ったさっさと行って来い!!」
嘗てないほどの難題ぶりに、軽い眩暈を覚えながらも探偵助手は追い立てられるように事務所を後にしアテのない調査を仕方なく再開したのだった。
【誘致の綻】
正月も過ぎて一月も半分ほど終わり、小さいながらもその地に根差した神社として忙しい日の続いていた武蔵清明社も、漸く落ち着いた時間を取り戻して神主も何時もの生活に戻っていた。
昼下がり、自宅から続きの古書店の帳場。
旧年と同様、正月を終えたばかりだというのに連日葬儀に見舞われたかのような仏頂面で、これまた旧年と同様時代を感じさせる和綴じの本に店主は目を落としていた。
そこへ。
近付いてくる跫が一人分。大抵、客は古書店ではなく店主に用がある者ばかりで、そして眩暈坂と呼ばれるいい加減な傾斜がだらだらと続く長い坂を上ってくるのだがその客は坂とは反対方向から店へとやって来た。
店先で一度足を止め、店主の、達筆のようにも悪筆のようにも見える筆跡で「京極堂」と書かれた看板を見上げると、来客は小さく笑みを零して出入り口の戸に手を掛けると。
「うわはははははは! 矢っ張りここにいたなッ、この本馬鹿!」
外見の品の良さに反して勢い良く、無作法に戸を開けるとこれまた無作法に、静寂に包まれていた古書店どころか近所中に聞こえそうな豪快な声で来客は叫んだ。
店主はそれに動じた風もなく、更に溜め息ではなく微苦笑を湛えた顔で応える。
「明けまして御目出度うございます」
来客は一瞬だけ驚いたように数回瞬きをして、残念そうにその端整な顔を微笑ませた。
「矢っ張り、君は騙されてくれないみたいだ」
「すみません、彼奴とは無駄に付き合いが長いもので。それに総一郎さんとは雰囲気が全然違いますから…如何しても」
申し訳なさそうに弁解する古書肆に、来客の方はさして気にした風もなく笑顔で応じると話題を仕切り直すように小脇に抱えていた包みを帳場の机に置いた。
「改めて――あけましておめでとう。ちょっと、遅くなっちゃったけど。これ、御年始」
「すみません、わざわざ……」
「賄賂、兼ねてるから気にしないで?」
爽やかなな笑顔に不似合いな言葉をさらっと口にして本題を切り出す。
「今日、この後忙しいかな」
「特に先約はありませんが…何か?」
「良かった。じゃあ、出掛けよう」
このあたりの強引さは矢張り、あの探偵と兄弟であることを思わせる。
ただ兄の方が物腰の所為か切り出し方がスマートなので断りにくい。
「すみません、順番にお願いします」
「え? あぁ…そうか。うん、甘味同盟の実地調査のお誘いだね」
甘味同盟。
活動は不定期。活動内容は美味しい甘味――和菓子洋菓子を問わず――を扱う店、もしくは商品自体を見付けたら互いに連絡し合うこと。そして時間の都合が付く際は、総一郎の仕事を兼ねた実地調査に付き合うこと。
だっただろうか。
記憶の中から探し出した情報から要約すると、総一郎が悪戯っぽい笑顔で告げた言葉は単に「時間があるなら甘いものを食べに行こう」と誘っているに過ぎないことが判る。
「そういうことでしたら」
微笑って、
「愚妻に断って来ますから少しお待ち下さい」
と、古書肆はそのまま続きの母屋へと姿を消して、五分後には上着を羽織った姿で戻って来た。
「お待たせしました」
「じゃあ、行こうか」
店先に「骨休め」の札を下げ、戸締りをして総一郎の後に続く。眩暈坂とは反対方向に足を向けたのが少し意外だった。
「車でいらしたんですか?」
「そう。時間、勿体無いし。隣町の方からなら近くまで来られるから」
上機嫌に歩く背中に数歩遅れてついて行く。歩幅や姿勢は見慣れた探偵の歩き方によく似ていた。雰囲気も、今の状態ならとてもよく似ている。穏やかで、無邪気で――何か強烈な引力めいたものを持っていて。結局それに引っ張られてしまうところまで、本当に。
「どうかした?」
肩越しに振り返って尋ねる声に「いいえ」と笑顔で返すとそれ以上詮索はされなかった。
この辺の引きの良さが弟と違う点かもしれない。
車に着くと助手席に乗るよう促され、同乗した車は緩やかに街中へと向かう。運体は丁寧で他愛ない会話を交わしながらの短いドライブだった。通行の邪魔にならないよう路肩に停車して、立地のためか盛況な様子の少し高級そうな喫茶店へと促された。
「仕事でね、取引してるお店」
察して手短に説明すると、ドアを押し開き中へと足を踏み入れる。その後に続くと総一郎は既に入り口に立つ女給に席を頼んで中禅寺がついて来るのを確認すると案内に従い席に腰を下ろした。
「実はね」
中禅寺が座るのを待って切り出す。「ここの菓子職人、僕のお店の洋菓子を任せている人なんだけど。勉強熱心な人で。この前、珍しいお菓子の話を聞いて福岡まで行って来たんだって」
「福岡…ですか?」
「そう。――ほら、飛行機の国内線が運行してるでしょ? それで」
「わざわざ飛行機で…ですか?」
「その方が早いし。それに、機内食が重要でもあったから」
「何か珍しいものでも?」
「うん。それをね、今日は試して欲しいの」
総一郎は端整な顔を期待の笑みでほころばせて、見計らったように現れた女給が置いた皿乗った洋菓子を早速食べてみるよう促した。
そんな展開など予想だにせずに。
彼らが到着する少し前に店を出た一人の男性客が、満足そうな顔をして駅へと向かっていた。神保町方面の電車を待ちながら、一点だけ気になっている部分に思いをめぐらせる。
「問題は榎木津さんが食べられるかってところなんだよなぁ……」
ホームで電車の到着を待ちながら呟いたのは、誰あろう天下の薔薇十字探偵――の、助手であるところの益田龍一である。
「とりあえず、報告するだけ報告してみよう」
程なくやって来た電車に軽い足取りで乗り込んで、探偵助手は神保町で下車し真っ直ぐ職場に戻り結果を探偵に報告した。すると、
「おぉ、カマも偶には役に立つじゃないかッ!」
などと、珍しく褒められて逆に落ち着かない気持ちになった。
「あのですね、一つだけ気になることがあるんです」
「ん?」
「食感がですね、もしかしたら…と云うか、多分、榎木津さんの好みじゃない気がするんです」
「なぁんだ、そんなことか」
そんなこと、だったらしい。
「いいよ別に」
ぞんざいに応えて探偵は、鼻歌交じりで自室に戻る。
あれこれ予定を組み立てて――翌日を待った。
昼過ぎに目を覚ました探偵は、遅い朝食――世間では昼食の時間だったのだが――を済ませ、いつもの奇抜さから比べるとかなりおとなしい格好をして、上機嫌に事務所を出て行った。
電車を乗り継いで中野へ。彼に会うのは久し振りだった。
正月の賑わいがナリを潜める頃までは、神主としての仕事が立て込みいつもなかなか時間を取れない。
しかし、それももう落ち着いていい頃だ。
変わり行く車窓を眺めながら中野まで運ばれて、下車した駅を後にして、だらだらといい加減な傾斜の坂道を軽い足取りで上って目的の古書店の中の様子を探ると目的の人物はいつもの場所にいつものようにいつもの顔で座っていた。
小さく、満足そうに微笑って手を掛けた戸を勢いよく開く。
「うわはははははは! 矢っ張りここにいたなッ、この本馬鹿!」
古書肆が控えめに噴出したのを一瞬で隠すと苦笑をゆっくりと時間を掛けた一回の瞬きでいつもの不機嫌な表情を取り戻して探偵を睨むように見た。
「戸はもう少し丁寧に開け閉てしてくれないかなぁ。外れたり壊れたりしたら本に障るじゃないか」
「仕方がない、この僕が来たのだ」
「それで? 一人かい?」
「二人に見えるのか?」
「とりあえず、また面倒な事件に巻き込もうってことじゃあないようで安心したよ」
「ふふ、そんな無粋なもの連れてなどくるものか」
いやに機嫌がいい。
それが、古書肆に余計嫌な予感を抱かせる。
「暇だろう?」
「忙しいですよ」
「暇じゃないか」
「あんたにはただ本を読んでいるようにしか見えないかもしれないが、僕はここでこうして客を待っているんだ。だから断じて暇なんかじゃないよ」
「よし、出掛けよう」
「だから」
「行くぞ」
人の話など聞こうともせず、古書肆が読んでいた本をひったくるように取り上げると満面の笑みで反論全てを飲み込ませた。
深い溜め息を吐いて、相変わらずの遣り方に仕方なく折れる。
「待っていて下さい。千鶴子に断って来ます」
追い出すように探偵の店の外に出すと、「骨休め」の札を掲げて戸締りをし、続きの母屋を経由して――矢張り五分後には玄関から姿を現した。
「で、何の用です?」
「着けば解る」
「勿体振るなぁ」
「ふふ、偶には外でお茶をするのも悪くないだろう」
「……榎さん」
「なぁに?」
「何を企んでいるんです?」
不穏な気配に足を止めると当の探偵は「勘繰るなよ」と悪意なく笑って見せた。目的地に着くまで話す気がないらしい。
中野駅に着いて電車に乗り、一度路線を乗り換えて数駅目で下車をする。下りた街の風景は見慣れた場所ではなかった。
「ここは……」
「少し歩くぞ」
榎木津はポケットに忍ばせていたメモの簡易地図を見ながら歩く。
その背中に今日も数歩遅れて中禅寺は歩いていた。
矢張り、良く似ている。
歩き方や姿勢。少し癖のある髪の流れ。
「……ん?」
「どうかしたのか?」
「いや」
見覚えのある風景に重なる。
見覚えがあると云うか、ここは。
「あぁ、この角だな」
曲がると大通りに合流し、その賑やかな通り洒落た概観の喫茶店が姿を見せる。
「この店か」
西洋風のドアを開けて探偵は中に入る。
既視感。
昨日、彼の兄に案内されたばかりの店だ。
如何いう心算なのだろう。
真意を測りかねて、しかし中禅寺はそんな思考を隠して探偵に続く。
「いらっしゃいませ」
出迎えた女給は昨日とは違う人物だった。
「お二人様ですね、それではこちらのお席へどうぞ」
案内された席は、昨日とは通路を挟んだ反対側。
「お決まりになりましたら及び下さい」
「いいよ、今で」
革張りのメニュを受け取るなり、探偵は目的の名前を探す。
「どれだ? えぇと……」
けれど結局メニュの中から探すのを諦めて、さっきのメモを取り出すと間延びした声で読み上げた。
「すいーとぽてと、二つ。後――珈琲? 紅茶?」
「僕は紅茶で」
「じゃあ、僕は珈琲にしよう」
「畏まりました」
女給が去ると、悪戯っぽく笑って「どうだ?」と徐に尋ねてきた。
「どうって、何がです?」
「店」
「悪くないよ」
「知っているか?」
「スイートポテト、ですか?」
「そう、それ。そのすいーとぽてと」
「これは…洋菓子に入るんだろうなぁ。和製の洋菓子、と云っても差し支えないかもしれないが――大阪に、確か昭和三年に創作したっていう菓子店もあるが最近は福岡の方が有名かもしれない。こっちは戦後、国内線の運行開始から添乗員の間で評判になったそうだよ。ここの店主は福岡の方を聞いて学んで来たとか云う話だ」
「ふうん」
相変わらず聞けば何でも答える古書肆の言葉を榎木津は珍しく機嫌良く聞いていたが。
「ん?」
頷いてから、気付く。
今、何て云った?
「お待たせ致しました」
着想を攫ったのは女給の愛想の良い声と目の前に置かれた洋菓子。そして香りの良い珈琲。
「ごゆっくりどうぞ」
完璧な笑顔で云い置いて去っていく。着想は彼女に回収されてしまったようで何か違和感を感じた気がしたのだけれど霧散してしまったようだった。
「よし、食べよう」
添えられたスプーンで端を削って口に含む。
甘い、薩摩芋の味がした。
しかし。
「あぁ、矢っ張りあんたは苦手な食感だったみたいだな」
まただ。
「おい」
「何だい?」
顔を上げた中禅寺と目が合う。
そして、視界を邪魔する彼の記憶に。
「……ソウ?」
自分に良く似た顔が視えた。でも自分の記憶にはないのだから、それは。
「お前、ソウとも来たのか?」
思いがけないところに誘致の綻を見付けて探偵は表情を曇らせた。
何でもないことのように、古書肆はあっさりそれを肯定する。
「この店にかい? 来たよ、昨日」
「昨日?」
「突然店にいらしてね。実地調査に同行したんだ」
思い出して、可笑しそうに小さく笑う。
「今日、あんたが入って来た時と同じ台詞を同じ行動で口にするものだから。矢っ張り兄弟っていうのはそういうところも解るものなのかな。顔が似てるだけに堪えるのが大変だった」
「聞いてないぞ」
「僕が話す間もなく押し切って、行き先も告げずに強引にここまで連れ出したのはあんたの方ですよ、榎さん」
「…………」
「それに、何が気に入らないのか知らないが」
「ソウが気に入らない」
「…………」
「…………」
困った顔をして、古書肆は一つ溜め息を吐いた。
「一応断っておくけれど」
「何だ」
「総一郎さんとは何もありませんよ」
「……そんなことは尋いてない」
「なら」一体何が気に入らないんです?
「全部だ!」
向かいに座る中禅寺が軽い眩暈を覚えて眉根を寄せるのにも構わずに、
「大体、何でソウがお前の店まで来るのだ」
と、探偵は苛立ちを隠そうともせずに問う。
「年始の挨拶に来て下さっただけですよ」
「だから、何でソウが行く必要がある」
「絡むなぁ」
「隠すのが悪い」
「隠す心算なんかないよ。云う必要がないから云っていないだけだ」
「じゃあ今その必要があるんだから云え」
「面倒だなぁ」
「煩瑣いぞお前」
そして中禅寺は仕方なく、年が明ける前に成り行きで結成することになった甘味同盟のことと、その実地調査として昨日この店に来てスイートポテトを御馳走になったことを榎木津に告白した。
「これで全部だよ」
「……ソウの奴め」
怒りというよりも恨みに近い声音で低く呟く。ひどくらしくない振る舞いばかりするのが中禅寺には逆に可笑しかった。
「僕も、一つ尋いていいかい?」
「何をだ」
「あんた、何でそう総一郎さんを嫌うんだい?」
「決まっている」
端整な顔をこの上なく嫌そうな色に引き攣らせて。
「アニだからだ」
至極真面目に口にする。
数秒後。
珍しく、古書肆は口許を手の甲で隠して、しかし堪え切れないという顔で。
笑いを噛み殺し出した。
「笑うなっ!」
「いや、すまない…あんたがあんまり真面目に云うものだから」
「自分の過去のほぼ全部を知られていて、異様に勘が良くて、いつも何だか勝てないんだぞ。その上最近お前とお茶したことをさり気なく自慢しに来るのだ。まったく嫌味なことこの上ない」
「自慢?」
「ソウを見縊るなよ。多分、彼奴のことだから僕たちのことにも気付いている」
「あぁ、それは――」そうだろうね。
いつも、弟の振りをする彼に騙されない自分に、少しだけ含みのある表情を見せるので多分そうだろうという気配は感じていた。
「気付いる癖に気付いていない振りをして、僕を揶揄って楽しんでいるのだ」
「揶揄ってねぇ…だったら愉快だがなぁ」
「僕は不愉快だ」
「あんたも、身内には頭が上がらないらしい」
「ふん、忌忌しいだけだ」
らしくなく、そして何処か拗ねたような榎木津にまた小さく笑みをこぼすと古書肆は紅茶で喉を潤して再びスイートポテトに口を付けた。
「同じ店で同じものを食べたって、相手が違えば時間の意味も違いますよ」
頬杖を突いて外方を向いたままの探偵に穏やかな声で口にする。
「そろそろ、機嫌を直したらどうです?」
嫌そうな顔をして、しかし。
嫌悪する兄とは穏やかにお茶をしていたのに自分とは苦笑で応じられるのは我慢がならないと思い直し。
「ふん、洋菓子と珈琲とこの店には罪がないことは認めてやる」
尊大に云って、一口分だけ欠けたスイートポテトの皿を榎木津は中禅寺の方へ押しやった。
「これ、お前が食べていいぞ。僕は無理だ」
「有難くいただくよ」
その代償は彼の愚痴。相当溜め込んでいたらしく、食べ終わるまでの間ずっと総一郎に対する不満を聞かされることになった。
半分を聞き流しながら聞いていると。
「癪だから今日は僕の奢りだ」
食べ終わった頃、更に不満そうな顔でそう云われた。
「じゃあ、甘えさせてもらうよ」
そんなところまで張り合おうとするのが可笑しくて、また小さく笑うと榎木津は嫌そうな顔をした。
会計を済ませ、店を出る。
駅に向かい、途中までは同じ電車で、途中からそれぞれの目的地――自宅方面へと乗り換えて別れた。
「まったく、あの役立たずめ」
収まらぬ怒りを抱えながら、探偵は神保町で電車を下りると自社ビルの三階までの階段に怒りを打ち込むように靴音を立て、不機嫌を叩きつけるようにドアを開いた。
ドアベルは音とも云えない悲鳴のような声を上げ、応接テーブルで雑談していた探偵助手と秘書兼休治役の和寅が肩を竦めて恐る恐る探偵に視線を向ける。
「せ、先生お帰りなさいやし」
「榎木津さん…ど、どうかなさったんですか?」
「どうもこうもないッ!」
冷たい視線が探偵助手を捕らえた。
「カマオロカッ」
「は…はぃッ!」
小さくなっていた益田は益益肩身狭そうに裏返った声で返事をする。
「この…バカオロカめ、やり直しだッ!!」
備考>これは慥か昨年の1月の東京シティの無配本…だった気がする。
「この…バカオロカめ、やり直しだッ!!」
端整な顔を怒り一色で染め上げて、探偵は助手を怒鳴りつけると深深と溜め息を吐き大袈裟に嘆いた。
「まったく、何でこうもオロカなのだ。サガシやシラベは下僕の役目だから任せたというのに何という失態! 何という無能さ」
「え? ちょっと、待って下さい」
突然の罵倒はいつものことだが出掛ける前は確か「カマも偶には役に立つじゃないか」とどちらかと云えば上機嫌だったはずだ。詰られる原因として思いつくところは現状では唯一つ。しかし。
「僕ァ事前に断ったじゃないですか…多分榎木津さん好みの食感ではありませんよって」
「違ぁーう!」
年齢にも顔にも不相応に間延びした声で、探偵は眉間の皺を更に深くする。
「悪いのは洋菓子じゃなくて店だッ!」
「店?」
ますます解らない。
「いいからすぐにやら直す! 早く別の店を見つけて来いッ!!」
「見つけるって」
憤慨している当の榎木津からは、珍しい洋菓子を扱っている店か珍しい洋菓子を探してこいという指示しか受けておらず、かなり苦労して探し出した店は否定されてしまったのだからせめて何が気に入らなかったのかくらい教えてもらわなければ探しようもない。
「無能」
「はぁ、仰る通り僕は中禅寺さんみたいに云われずとも榎木津さんの云いたいところを察するなんて芸当出来ません」
そう返すと探偵はますます嫌そうな顔をして、
「……口にするのも不愉快だから一度しか云わないぞ」
と、この上なく不機嫌な顔を断った。
「はぁ」
本当に、最上級の嫌そうな顔をして、それでも探偵は「あー」とか「うー」とか煮え切らない声を発し、やがて深い溜め息を吐いて口にする。
「いいか、ソウが知らないことが条件だ! 解ったさっさと行って来い!!」
嘗てないほどの難題ぶりに、軽い眩暈を覚えながらも探偵助手は追い立てられるように事務所を後にしアテのない調査を仕方なく再開したのだった。
【誘致の綻】
正月も過ぎて一月も半分ほど終わり、小さいながらもその地に根差した神社として忙しい日の続いていた武蔵清明社も、漸く落ち着いた時間を取り戻して神主も何時もの生活に戻っていた。
昼下がり、自宅から続きの古書店の帳場。
旧年と同様、正月を終えたばかりだというのに連日葬儀に見舞われたかのような仏頂面で、これまた旧年と同様時代を感じさせる和綴じの本に店主は目を落としていた。
そこへ。
近付いてくる跫が一人分。大抵、客は古書店ではなく店主に用がある者ばかりで、そして眩暈坂と呼ばれるいい加減な傾斜がだらだらと続く長い坂を上ってくるのだがその客は坂とは反対方向から店へとやって来た。
店先で一度足を止め、店主の、達筆のようにも悪筆のようにも見える筆跡で「京極堂」と書かれた看板を見上げると、来客は小さく笑みを零して出入り口の戸に手を掛けると。
「うわはははははは! 矢っ張りここにいたなッ、この本馬鹿!」
外見の品の良さに反して勢い良く、無作法に戸を開けるとこれまた無作法に、静寂に包まれていた古書店どころか近所中に聞こえそうな豪快な声で来客は叫んだ。
店主はそれに動じた風もなく、更に溜め息ではなく微苦笑を湛えた顔で応える。
「明けまして御目出度うございます」
来客は一瞬だけ驚いたように数回瞬きをして、残念そうにその端整な顔を微笑ませた。
「矢っ張り、君は騙されてくれないみたいだ」
「すみません、彼奴とは無駄に付き合いが長いもので。それに総一郎さんとは雰囲気が全然違いますから…如何しても」
申し訳なさそうに弁解する古書肆に、来客の方はさして気にした風もなく笑顔で応じると話題を仕切り直すように小脇に抱えていた包みを帳場の机に置いた。
「改めて――あけましておめでとう。ちょっと、遅くなっちゃったけど。これ、御年始」
「すみません、わざわざ……」
「賄賂、兼ねてるから気にしないで?」
爽やかなな笑顔に不似合いな言葉をさらっと口にして本題を切り出す。
「今日、この後忙しいかな」
「特に先約はありませんが…何か?」
「良かった。じゃあ、出掛けよう」
このあたりの強引さは矢張り、あの探偵と兄弟であることを思わせる。
ただ兄の方が物腰の所為か切り出し方がスマートなので断りにくい。
「すみません、順番にお願いします」
「え? あぁ…そうか。うん、甘味同盟の実地調査のお誘いだね」
甘味同盟。
活動は不定期。活動内容は美味しい甘味――和菓子洋菓子を問わず――を扱う店、もしくは商品自体を見付けたら互いに連絡し合うこと。そして時間の都合が付く際は、総一郎の仕事を兼ねた実地調査に付き合うこと。
だっただろうか。
記憶の中から探し出した情報から要約すると、総一郎が悪戯っぽい笑顔で告げた言葉は単に「時間があるなら甘いものを食べに行こう」と誘っているに過ぎないことが判る。
「そういうことでしたら」
微笑って、
「愚妻に断って来ますから少しお待ち下さい」
と、古書肆はそのまま続きの母屋へと姿を消して、五分後には上着を羽織った姿で戻って来た。
「お待たせしました」
「じゃあ、行こうか」
店先に「骨休め」の札を下げ、戸締りをして総一郎の後に続く。眩暈坂とは反対方向に足を向けたのが少し意外だった。
「車でいらしたんですか?」
「そう。時間、勿体無いし。隣町の方からなら近くまで来られるから」
上機嫌に歩く背中に数歩遅れてついて行く。歩幅や姿勢は見慣れた探偵の歩き方によく似ていた。雰囲気も、今の状態ならとてもよく似ている。穏やかで、無邪気で――何か強烈な引力めいたものを持っていて。結局それに引っ張られてしまうところまで、本当に。
「どうかした?」
肩越しに振り返って尋ねる声に「いいえ」と笑顔で返すとそれ以上詮索はされなかった。
この辺の引きの良さが弟と違う点かもしれない。
車に着くと助手席に乗るよう促され、同乗した車は緩やかに街中へと向かう。運体は丁寧で他愛ない会話を交わしながらの短いドライブだった。通行の邪魔にならないよう路肩に停車して、立地のためか盛況な様子の少し高級そうな喫茶店へと促された。
「仕事でね、取引してるお店」
察して手短に説明すると、ドアを押し開き中へと足を踏み入れる。その後に続くと総一郎は既に入り口に立つ女給に席を頼んで中禅寺がついて来るのを確認すると案内に従い席に腰を下ろした。
「実はね」
中禅寺が座るのを待って切り出す。「ここの菓子職人、僕のお店の洋菓子を任せている人なんだけど。勉強熱心な人で。この前、珍しいお菓子の話を聞いて福岡まで行って来たんだって」
「福岡…ですか?」
「そう。――ほら、飛行機の国内線が運行してるでしょ? それで」
「わざわざ飛行機で…ですか?」
「その方が早いし。それに、機内食が重要でもあったから」
「何か珍しいものでも?」
「うん。それをね、今日は試して欲しいの」
総一郎は端整な顔を期待の笑みでほころばせて、見計らったように現れた女給が置いた皿乗った洋菓子を早速食べてみるよう促した。
そんな展開など予想だにせずに。
彼らが到着する少し前に店を出た一人の男性客が、満足そうな顔をして駅へと向かっていた。神保町方面の電車を待ちながら、一点だけ気になっている部分に思いをめぐらせる。
「問題は榎木津さんが食べられるかってところなんだよなぁ……」
ホームで電車の到着を待ちながら呟いたのは、誰あろう天下の薔薇十字探偵――の、助手であるところの益田龍一である。
「とりあえず、報告するだけ報告してみよう」
程なくやって来た電車に軽い足取りで乗り込んで、探偵助手は神保町で下車し真っ直ぐ職場に戻り結果を探偵に報告した。すると、
「おぉ、カマも偶には役に立つじゃないかッ!」
などと、珍しく褒められて逆に落ち着かない気持ちになった。
「あのですね、一つだけ気になることがあるんです」
「ん?」
「食感がですね、もしかしたら…と云うか、多分、榎木津さんの好みじゃない気がするんです」
「なぁんだ、そんなことか」
そんなこと、だったらしい。
「いいよ別に」
ぞんざいに応えて探偵は、鼻歌交じりで自室に戻る。
あれこれ予定を組み立てて――翌日を待った。
昼過ぎに目を覚ました探偵は、遅い朝食――世間では昼食の時間だったのだが――を済ませ、いつもの奇抜さから比べるとかなりおとなしい格好をして、上機嫌に事務所を出て行った。
電車を乗り継いで中野へ。彼に会うのは久し振りだった。
正月の賑わいがナリを潜める頃までは、神主としての仕事が立て込みいつもなかなか時間を取れない。
しかし、それももう落ち着いていい頃だ。
変わり行く車窓を眺めながら中野まで運ばれて、下車した駅を後にして、だらだらといい加減な傾斜の坂道を軽い足取りで上って目的の古書店の中の様子を探ると目的の人物はいつもの場所にいつものようにいつもの顔で座っていた。
小さく、満足そうに微笑って手を掛けた戸を勢いよく開く。
「うわはははははは! 矢っ張りここにいたなッ、この本馬鹿!」
古書肆が控えめに噴出したのを一瞬で隠すと苦笑をゆっくりと時間を掛けた一回の瞬きでいつもの不機嫌な表情を取り戻して探偵を睨むように見た。
「戸はもう少し丁寧に開け閉てしてくれないかなぁ。外れたり壊れたりしたら本に障るじゃないか」
「仕方がない、この僕が来たのだ」
「それで? 一人かい?」
「二人に見えるのか?」
「とりあえず、また面倒な事件に巻き込もうってことじゃあないようで安心したよ」
「ふふ、そんな無粋なもの連れてなどくるものか」
いやに機嫌がいい。
それが、古書肆に余計嫌な予感を抱かせる。
「暇だろう?」
「忙しいですよ」
「暇じゃないか」
「あんたにはただ本を読んでいるようにしか見えないかもしれないが、僕はここでこうして客を待っているんだ。だから断じて暇なんかじゃないよ」
「よし、出掛けよう」
「だから」
「行くぞ」
人の話など聞こうともせず、古書肆が読んでいた本をひったくるように取り上げると満面の笑みで反論全てを飲み込ませた。
深い溜め息を吐いて、相変わらずの遣り方に仕方なく折れる。
「待っていて下さい。千鶴子に断って来ます」
追い出すように探偵の店の外に出すと、「骨休め」の札を掲げて戸締りをし、続きの母屋を経由して――矢張り五分後には玄関から姿を現した。
「で、何の用です?」
「着けば解る」
「勿体振るなぁ」
「ふふ、偶には外でお茶をするのも悪くないだろう」
「……榎さん」
「なぁに?」
「何を企んでいるんです?」
不穏な気配に足を止めると当の探偵は「勘繰るなよ」と悪意なく笑って見せた。目的地に着くまで話す気がないらしい。
中野駅に着いて電車に乗り、一度路線を乗り換えて数駅目で下車をする。下りた街の風景は見慣れた場所ではなかった。
「ここは……」
「少し歩くぞ」
榎木津はポケットに忍ばせていたメモの簡易地図を見ながら歩く。
その背中に今日も数歩遅れて中禅寺は歩いていた。
矢張り、良く似ている。
歩き方や姿勢。少し癖のある髪の流れ。
「……ん?」
「どうかしたのか?」
「いや」
見覚えのある風景に重なる。
見覚えがあると云うか、ここは。
「あぁ、この角だな」
曲がると大通りに合流し、その賑やかな通り洒落た概観の喫茶店が姿を見せる。
「この店か」
西洋風のドアを開けて探偵は中に入る。
既視感。
昨日、彼の兄に案内されたばかりの店だ。
如何いう心算なのだろう。
真意を測りかねて、しかし中禅寺はそんな思考を隠して探偵に続く。
「いらっしゃいませ」
出迎えた女給は昨日とは違う人物だった。
「お二人様ですね、それではこちらのお席へどうぞ」
案内された席は、昨日とは通路を挟んだ反対側。
「お決まりになりましたら及び下さい」
「いいよ、今で」
革張りのメニュを受け取るなり、探偵は目的の名前を探す。
「どれだ? えぇと……」
けれど結局メニュの中から探すのを諦めて、さっきのメモを取り出すと間延びした声で読み上げた。
「すいーとぽてと、二つ。後――珈琲? 紅茶?」
「僕は紅茶で」
「じゃあ、僕は珈琲にしよう」
「畏まりました」
女給が去ると、悪戯っぽく笑って「どうだ?」と徐に尋ねてきた。
「どうって、何がです?」
「店」
「悪くないよ」
「知っているか?」
「スイートポテト、ですか?」
「そう、それ。そのすいーとぽてと」
「これは…洋菓子に入るんだろうなぁ。和製の洋菓子、と云っても差し支えないかもしれないが――大阪に、確か昭和三年に創作したっていう菓子店もあるが最近は福岡の方が有名かもしれない。こっちは戦後、国内線の運行開始から添乗員の間で評判になったそうだよ。ここの店主は福岡の方を聞いて学んで来たとか云う話だ」
「ふうん」
相変わらず聞けば何でも答える古書肆の言葉を榎木津は珍しく機嫌良く聞いていたが。
「ん?」
頷いてから、気付く。
今、何て云った?
「お待たせ致しました」
着想を攫ったのは女給の愛想の良い声と目の前に置かれた洋菓子。そして香りの良い珈琲。
「ごゆっくりどうぞ」
完璧な笑顔で云い置いて去っていく。着想は彼女に回収されてしまったようで何か違和感を感じた気がしたのだけれど霧散してしまったようだった。
「よし、食べよう」
添えられたスプーンで端を削って口に含む。
甘い、薩摩芋の味がした。
しかし。
「あぁ、矢っ張りあんたは苦手な食感だったみたいだな」
まただ。
「おい」
「何だい?」
顔を上げた中禅寺と目が合う。
そして、視界を邪魔する彼の記憶に。
「……ソウ?」
自分に良く似た顔が視えた。でも自分の記憶にはないのだから、それは。
「お前、ソウとも来たのか?」
思いがけないところに誘致の綻を見付けて探偵は表情を曇らせた。
何でもないことのように、古書肆はあっさりそれを肯定する。
「この店にかい? 来たよ、昨日」
「昨日?」
「突然店にいらしてね。実地調査に同行したんだ」
思い出して、可笑しそうに小さく笑う。
「今日、あんたが入って来た時と同じ台詞を同じ行動で口にするものだから。矢っ張り兄弟っていうのはそういうところも解るものなのかな。顔が似てるだけに堪えるのが大変だった」
「聞いてないぞ」
「僕が話す間もなく押し切って、行き先も告げずに強引にここまで連れ出したのはあんたの方ですよ、榎さん」
「…………」
「それに、何が気に入らないのか知らないが」
「ソウが気に入らない」
「…………」
「…………」
困った顔をして、古書肆は一つ溜め息を吐いた。
「一応断っておくけれど」
「何だ」
「総一郎さんとは何もありませんよ」
「……そんなことは尋いてない」
「なら」一体何が気に入らないんです?
「全部だ!」
向かいに座る中禅寺が軽い眩暈を覚えて眉根を寄せるのにも構わずに、
「大体、何でソウがお前の店まで来るのだ」
と、探偵は苛立ちを隠そうともせずに問う。
「年始の挨拶に来て下さっただけですよ」
「だから、何でソウが行く必要がある」
「絡むなぁ」
「隠すのが悪い」
「隠す心算なんかないよ。云う必要がないから云っていないだけだ」
「じゃあ今その必要があるんだから云え」
「面倒だなぁ」
「煩瑣いぞお前」
そして中禅寺は仕方なく、年が明ける前に成り行きで結成することになった甘味同盟のことと、その実地調査として昨日この店に来てスイートポテトを御馳走になったことを榎木津に告白した。
「これで全部だよ」
「……ソウの奴め」
怒りというよりも恨みに近い声音で低く呟く。ひどくらしくない振る舞いばかりするのが中禅寺には逆に可笑しかった。
「僕も、一つ尋いていいかい?」
「何をだ」
「あんた、何でそう総一郎さんを嫌うんだい?」
「決まっている」
端整な顔をこの上なく嫌そうな色に引き攣らせて。
「アニだからだ」
至極真面目に口にする。
数秒後。
珍しく、古書肆は口許を手の甲で隠して、しかし堪え切れないという顔で。
笑いを噛み殺し出した。
「笑うなっ!」
「いや、すまない…あんたがあんまり真面目に云うものだから」
「自分の過去のほぼ全部を知られていて、異様に勘が良くて、いつも何だか勝てないんだぞ。その上最近お前とお茶したことをさり気なく自慢しに来るのだ。まったく嫌味なことこの上ない」
「自慢?」
「ソウを見縊るなよ。多分、彼奴のことだから僕たちのことにも気付いている」
「あぁ、それは――」そうだろうね。
いつも、弟の振りをする彼に騙されない自分に、少しだけ含みのある表情を見せるので多分そうだろうという気配は感じていた。
「気付いる癖に気付いていない振りをして、僕を揶揄って楽しんでいるのだ」
「揶揄ってねぇ…だったら愉快だがなぁ」
「僕は不愉快だ」
「あんたも、身内には頭が上がらないらしい」
「ふん、忌忌しいだけだ」
らしくなく、そして何処か拗ねたような榎木津にまた小さく笑みをこぼすと古書肆は紅茶で喉を潤して再びスイートポテトに口を付けた。
「同じ店で同じものを食べたって、相手が違えば時間の意味も違いますよ」
頬杖を突いて外方を向いたままの探偵に穏やかな声で口にする。
「そろそろ、機嫌を直したらどうです?」
嫌そうな顔をして、しかし。
嫌悪する兄とは穏やかにお茶をしていたのに自分とは苦笑で応じられるのは我慢がならないと思い直し。
「ふん、洋菓子と珈琲とこの店には罪がないことは認めてやる」
尊大に云って、一口分だけ欠けたスイートポテトの皿を榎木津は中禅寺の方へ押しやった。
「これ、お前が食べていいぞ。僕は無理だ」
「有難くいただくよ」
その代償は彼の愚痴。相当溜め込んでいたらしく、食べ終わるまでの間ずっと総一郎に対する不満を聞かされることになった。
半分を聞き流しながら聞いていると。
「癪だから今日は僕の奢りだ」
食べ終わった頃、更に不満そうな顔でそう云われた。
「じゃあ、甘えさせてもらうよ」
そんなところまで張り合おうとするのが可笑しくて、また小さく笑うと榎木津は嫌そうな顔をした。
会計を済ませ、店を出る。
駅に向かい、途中までは同じ電車で、途中からそれぞれの目的地――自宅方面へと乗り換えて別れた。
「まったく、あの役立たずめ」
収まらぬ怒りを抱えながら、探偵は神保町で電車を下りると自社ビルの三階までの階段に怒りを打ち込むように靴音を立て、不機嫌を叩きつけるようにドアを開いた。
ドアベルは音とも云えない悲鳴のような声を上げ、応接テーブルで雑談していた探偵助手と秘書兼休治役の和寅が肩を竦めて恐る恐る探偵に視線を向ける。
「せ、先生お帰りなさいやし」
「榎木津さん…ど、どうかなさったんですか?」
「どうもこうもないッ!」
冷たい視線が探偵助手を捕らえた。
「カマオロカッ」
「は…はぃッ!」
小さくなっていた益田は益益肩身狭そうに裏返った声で返事をする。
「この…バカオロカめ、やり直しだッ!!」
備考>これは慥か昨年の1月の東京シティの無配本…だった気がする。
2010/05/29 (Sat)
00:39:41
●凍結前にログ下ろししておこうと思ったら、txtデータ入れてたFDを紛失してしまい阻まれました。
あれ? おかしいなぁ……。
フラッシュメモリに保存しておいた、先のプチオンリの無配本の原稿しかないぞこれ…待て。
『遠くの何時か』とか『ベタだけど有り得ない』とか『探していると云えなくて』とか軒並みデータがない。いや製本用のデータは残ってるけどこれは製本するときにしか使いたくないので――って言ってたら出てきた。
――ってことで凍結前に怒涛のログ下ろしいきます!
あれ? おかしいなぁ……。
フラッシュメモリに保存しておいた、先のプチオンリの無配本の原稿しかないぞこれ…待て。
『遠くの何時か』とか『ベタだけど有り得ない』とか『探していると云えなくて』とか軒並みデータがない。いや製本用のデータは残ってるけどこれは製本するときにしか使いたくないので――って言ってたら出てきた。
――ってことで凍結前に怒涛のログ下ろしいきます!
2010/05/28 (Fri)
02:13:51
2010/05/27 (Thu)
16:48:07
●真壁の野望実現状況という名の更新予定リストだよ!
<済>
□トマトルテ+くるん兄弟っていうかロヴィ→親分貴族みたいな、ロヴィの初恋と玉砕、みたいな。
→ごめんなさい真壁は貴族を愛してるんで貴族と結婚してた時期の親分は、ロヴィのこと好きだし愛してもいるけどその思いは親バカ的な家族愛の域なんだ。
▼ちなみにこれ
<描き途中>
□アーサの好きなところを教えて!
→対枢軸組(のんのか枢軸?)
▼ちなみに第1弾は悪友編
<未着手>
→対れんごー
→北米兄弟(だからアルはれんごーじゃなくてこっちでくくりたい)
□ドーヴァがくっつくまでの紆余曲折。
→眉毛はあの子の仇で親分のうらみもあって……!
□青益
→鳥ちゃんの想いに甘えられたら楽だしシアワセなんだろうなっていうのは解るけど、どうしようもなく神にとらわれる。そんな自分ごと許し受け止める鳥ちゃんを利用してるって自覚はあるけどそんな自分を断罪して欲しいんだよ益田は青木さまに。
最低だって、思い知らせて欲しいんだ自分に。
益田はそういう風にしか自分を否定できない不器用な子なんだよ(多分)。
□旧館のTOP絵更新
→案はない。が、アレをなんとかしたい。切実に。
□織邑
→若気の至り的な。
----------------------
●ブログパーツのピクシブ見て下さっている方はお気付きかもしれませんがサイトに落っことさずにピクシブばっか使ってます。
●今日はこれから買い物です。
右手は腱鞘炎を宥めつつ使ってます。
真壁は、漫画はフルデジタルで作業できないので(アナログで描かないと実際とのバランスとかフキダシ配置のバランスとかが判らない)、最近漫画原稿用紙の消費が激しいです
。
アナログでネーム(水色シャーペン(0.5))→アナログで主線入れ(しかしシャーペン(0.4))→エレメンツでグレースケールでスキャンして原色でスキャンされた水色のネーム線を飛ばす→サイズ調整してsaiさまの限界サイズに挑む→saiさまで影入れとかデジタル作業→エレメンツに持ち帰って統合→サイズ調整してjpg保存→ピクシブに投下
な流れで作業してます。字書きのクセに今らくがきが楽しくてしょーがない。
ほんと、リクエストとかこないと際限なくらくがきし続けそうなんでだれか歯止めをかけた方がいいかもしれません。
●W・Aの新TOP絵ネタ切実に募集中……。
時任…って、以前リクをいただいたような気がしなくもないけどあれはみにみのでもぉけだったのかどうか思い出せないorz
年明ける前だったしな……。
具体的なリクをいただけるとありがたいですが、真壁の画力と相談しなきゃいけないのでお手柔らかに願います。
TOP絵漫画とかも歓迎です。
「――ってのはどうですか」とか言っていただけるとありがたい。
●新館のTOP絵もそろそろ変えたいですね…山内さんのカッコがいいかげん暑苦しい件。
次はだれがいいですかね…こちらも応相談です。
●砂駕さんが薬屋ほったらかしまくってるのをどうしたもんかなと思っている。うん…いいのかなアレ……。
<済>
□トマトルテ+くるん兄弟っていうかロヴィ→親分貴族みたいな、ロヴィの初恋と玉砕、みたいな。
→ごめんなさい真壁は貴族を愛してるんで貴族と結婚してた時期の親分は、ロヴィのこと好きだし愛してもいるけどその思いは親バカ的な家族愛の域なんだ。
▼ちなみにこれ
<描き途中>
□アーサの好きなところを教えて!
→対枢軸組(のんのか枢軸?)
▼ちなみに第1弾は悪友編
<未着手>
→対れんごー
→北米兄弟(だからアルはれんごーじゃなくてこっちでくくりたい)
□ドーヴァがくっつくまでの紆余曲折。
→眉毛はあの子の仇で親分のうらみもあって……!
□青益
→鳥ちゃんの想いに甘えられたら楽だしシアワセなんだろうなっていうのは解るけど、どうしようもなく神にとらわれる。そんな自分ごと許し受け止める鳥ちゃんを利用してるって自覚はあるけどそんな自分を断罪して欲しいんだよ益田は青木さまに。
最低だって、思い知らせて欲しいんだ自分に。
益田はそういう風にしか自分を否定できない不器用な子なんだよ(多分)。
□旧館のTOP絵更新
→案はない。が、アレをなんとかしたい。切実に。
□織邑
→若気の至り的な。
----------------------
●ブログパーツのピクシブ見て下さっている方はお気付きかもしれませんがサイトに落っことさずにピクシブばっか使ってます。
●今日はこれから買い物です。
右手は腱鞘炎を宥めつつ使ってます。
真壁は、漫画はフルデジタルで作業できないので(アナログで描かないと実際とのバランスとかフキダシ配置のバランスとかが判らない)、最近漫画原稿用紙の消費が激しいです
。
アナログでネーム(水色シャーペン(0.5))→アナログで主線入れ(しかしシャーペン(0.4))→エレメンツでグレースケールでスキャンして原色でスキャンされた水色のネーム線を飛ばす→サイズ調整してsaiさまの限界サイズに挑む→saiさまで影入れとかデジタル作業→エレメンツに持ち帰って統合→サイズ調整してjpg保存→ピクシブに投下
な流れで作業してます。字書きのクセに今らくがきが楽しくてしょーがない。
ほんと、リクエストとかこないと際限なくらくがきし続けそうなんでだれか歯止めをかけた方がいいかもしれません。
●W・Aの新TOP絵ネタ切実に募集中……。
時任…って、以前リクをいただいたような気がしなくもないけどあれはみにみのでもぉけだったのかどうか思い出せないorz
年明ける前だったしな……。
具体的なリクをいただけるとありがたいですが、真壁の画力と相談しなきゃいけないのでお手柔らかに願います。
TOP絵漫画とかも歓迎です。
「――ってのはどうですか」とか言っていただけるとありがたい。
●新館のTOP絵もそろそろ変えたいですね…山内さんのカッコがいいかげん暑苦しい件。
次はだれがいいですかね…こちらも応相談です。
●砂駕さんが薬屋ほったらかしまくってるのをどうしたもんかなと思っている。うん…いいのかなアレ……。
2010/05/25 (Tue)
03:29:57
●再発っていうと一回治ったっぽく聞こえるけど治ったわけじゃなくておとなしくしてたってだけなんで再発という日本語はいささか正確ではありませんがまぁ便宜上そう表現しておくことにしましょう。
えぇ原因は判ってます。明らかに絵の描きすぎです。
落描きが楽しくてしょーがない真壁は右手を使い込みすぎた模様です。
手首痛い。腕の筋が痛い。
後何故か左手の、人差し指の付け根が痛い。これは絵とは関係ないはずなんだが…な、何が原因なんだかも判らないという。
しかしそれでも我慢できずにネームやってました。うん…昨日落っことしハプスの後編。おかげさまで後主線入れてデジタル処理するだけの状態です。
そうなんです。ネーム上がったんですよ。勢いってすごい……。
あ゛ー…でも満足v
主線入れは明日にならんと出来ないかんじですが楽しみです。
切ないロヴィを描くのが楽しかった!
●来週親不知抜くんで仕遅出にしてもらえんか言うだけ言ってみたら、代講立つかもしれん感じでもしかしたら休めるカモです。ぐだぐだするぞー…って歯が痛くてそれどころじゃないかもしれんけど(苦笑)
●昨日は夜なんか腰痛くって寝にくくって、そんで歯医者行って待ってる間異様に眠くってぼへぼへしているうちに一瞬寝こけてたっぽくて、夜また不定期の不眠症が悪さしおったぜよ……。
う゛ー…参った!
●そんなわけで今日はもう店じまい。
明日はバーズの発売日なんで忘れず帰りにわんぐー寄って買ってきて、全サに応募したいところです。
全サとか…応募すんのえっらい久し振りだ(笑)
えぇ原因は判ってます。明らかに絵の描きすぎです。
落描きが楽しくてしょーがない真壁は右手を使い込みすぎた模様です。
手首痛い。腕の筋が痛い。
後何故か左手の、人差し指の付け根が痛い。これは絵とは関係ないはずなんだが…な、何が原因なんだかも判らないという。
しかしそれでも我慢できずにネームやってました。うん…昨日落っことしハプスの後編。おかげさまで後主線入れてデジタル処理するだけの状態です。
そうなんです。ネーム上がったんですよ。勢いってすごい……。
あ゛ー…でも満足v
主線入れは明日にならんと出来ないかんじですが楽しみです。
切ないロヴィを描くのが楽しかった!
●来週親不知抜くんで仕遅出にしてもらえんか言うだけ言ってみたら、代講立つかもしれん感じでもしかしたら休めるカモです。ぐだぐだするぞー…って歯が痛くてそれどころじゃないかもしれんけど(苦笑)
●昨日は夜なんか腰痛くって寝にくくって、そんで歯医者行って待ってる間異様に眠くってぼへぼへしているうちに一瞬寝こけてたっぽくて、夜また不定期の不眠症が悪さしおったぜよ……。
う゛ー…参った!
●そんなわけで今日はもう店じまい。
明日はバーズの発売日なんで忘れず帰りにわんぐー寄って買ってきて、全サに応募したいところです。
全サとか…応募すんのえっらい久し振りだ(笑)
2010/05/24 (Mon)
02:10:36
●つい…通常版を買ってしまいましたorz
特装版にも帯つけやがれって話ですよ。信じられねーですよ! 全サの応募券をカバーの折り返しに印刷して切って使えとか正気の沙汰とは思えねーです。本にはさみいれるとか信じられねーですよ!!!!
できるかコルアァァァァァァァァァァ(ノ`□´)ノ゛┻━┻゛
そうか…だからどこも特装版は予約してるんで早売りの通常版を書店で買って先にみたとかいう話になるんですね……。
なんで通常版は帯なのに特装版は帯がねぇんだよコノヤロー!!! ちぎぃーっっっ(怒)
同じ本2冊も買ってどーするですよって話ですが、まったくもって…信じ難い所業です。本を売る存在としてその遣り方は本に対する愛がなさ過ぎる! もっと本大事にしようぜ…本にはさみ入れさせるとか愛が足りないって兄ちゃん嘆くぜきっと……。
●そんなこんなでぽこぽこしながら買ってきて、でもぴんくい表紙もかぁいいなぁ…とか思いつつ眺めて、今トマトルテ描いてます。とりあえず半分。無理だ半分しか描き上がらん。
●今日は再度歯医者に行ってきました。先週はめてもらったコイルがとれちまったんで無理に予約入れてもらったら、下の歯は順調に動いてるってんで次の回の分の調整までしてもらった一方で来週親不知抜くことになりましたひぇぇぇぇぇぇぇ!!!
そんなこんなで来週は月曜日安静にしておいた方がいいと思われるので仕事遅出にさせてもらう予定です。貧血気味でくらっくらしてるであろう日に早起きとか無理。超無理。しかも多分歯が痛いであろう最中に授業とかしんどいけどそっちは代わりがいないだろうからやるしかないかんじでがんばれ自分みたいなね。
●今日も拍手ありがとうございました!
トマトルテは今日中にぴくしぶにおっことせると思います。はい。
これでも半分にしたんだけど、縦長すぎてsaiさまにらめぇって言われたんでさらに分割されてるからエレメンツで合成しなきゃならん罠です(--;)
親分ちょっと描き慣れてきたけど果たして親分に見えるかはまったくもって謎である。そして髪下ろしてると貴族が貴族に見えるか心配です。別人疑惑。
●
特装版にも帯つけやがれって話ですよ。信じられねーですよ! 全サの応募券をカバーの折り返しに印刷して切って使えとか正気の沙汰とは思えねーです。本にはさみいれるとか信じられねーですよ!!!!
できるかコルアァァァァァァァァァァ(ノ`□´)ノ゛┻━┻゛
そうか…だからどこも特装版は予約してるんで早売りの通常版を書店で買って先にみたとかいう話になるんですね……。
なんで通常版は帯なのに特装版は帯がねぇんだよコノヤロー!!! ちぎぃーっっっ(怒)
同じ本2冊も買ってどーするですよって話ですが、まったくもって…信じ難い所業です。本を売る存在としてその遣り方は本に対する愛がなさ過ぎる! もっと本大事にしようぜ…本にはさみ入れさせるとか愛が足りないって兄ちゃん嘆くぜきっと……。
●そんなこんなでぽこぽこしながら買ってきて、でもぴんくい表紙もかぁいいなぁ…とか思いつつ眺めて、今トマトルテ描いてます。とりあえず半分。無理だ半分しか描き上がらん。
●今日は再度歯医者に行ってきました。先週はめてもらったコイルがとれちまったんで無理に予約入れてもらったら、下の歯は順調に動いてるってんで次の回の分の調整までしてもらった一方で来週親不知抜くことになりましたひぇぇぇぇぇぇぇ!!!
そんなこんなで来週は月曜日安静にしておいた方がいいと思われるので仕事遅出にさせてもらう予定です。貧血気味でくらっくらしてるであろう日に早起きとか無理。超無理。しかも多分歯が痛いであろう最中に授業とかしんどいけどそっちは代わりがいないだろうからやるしかないかんじでがんばれ自分みたいなね。
●今日も拍手ありがとうございました!
トマトルテは今日中にぴくしぶにおっことせると思います。はい。
これでも半分にしたんだけど、縦長すぎてsaiさまにらめぇって言われたんでさらに分割されてるからエレメンツで合成しなきゃならん罠です(--;)
親分ちょっと描き慣れてきたけど果たして親分に見えるかはまったくもって謎である。そして髪下ろしてると貴族が貴族に見えるか心配です。別人疑惑。
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